(37)アービトラージ(裁定取引)は、どんな時にできるか?
- −Q− 「裁定取引」という言葉は、よく聞きますが、どういうときに出来ますか?そして、初めにコスト計算をしてかかるのですか?
- −A− コスト計算というよりも、限月間、市場間などを比較してみて、少しでも歪みが発見できれば、その歪みを利用して利益を得ようとする取引でしょう。それによって歪みが平準化され、正常に戻るのでしょう。
- 例えばオプションには、先物の買い(F)=コールの買い(C)−プットの売り(P)という公式があります。公式というよりもっと単純なことですが、いままで度々、オプションは先物を2つにちょん切って、リスクの部分と権利の部分とを別居させたものだと申しましたが、それをまた同居させると、元の先物ポジションができるのです。つまり先物の買い(F)はコールの買い(C)とプットの売り(P)を合成してできます。なぜなら、コールの買いは先物の「権利の部分」で、プットの売りは先物の「リスクの部分」だからです。
- 例えば、粗糖の先物相場が23,710円のとき、権利行使価格24,000円の粗糖のコールをプレミアム1,660円で売り、同時に同じ権利行使価格の粗糖のプットをプレミアム1,690円で買ったとする。この場合、プレミアムは差し引き30円の多く支払っているので、23,970円(=24,000円−30円)が損益分岐点です。いまの先物相場23,710円で粗糖先物を買うと、260円(=23,970円−23,710円)の利益(粗糖1枚(260円×50トン=)13,000円)が得られます。
- 同じように先物の売り(F)=プットの買い(P)−コールの売り(C)です。つまり先物の売りはプットの買いとコールの売りで合成されます。両者のプレミアムの差と、合成された先物の価格と実際の先物相場との差を比較して、歪みがあれば、裁定して利益を得ればいいのです。
- いま午後2時前ですから、先物市場は休みの時間です。しかし、オプション市場はザラバで取引されていますから、プレミアムは出ているはずです。この公式を使えば、次の節の先物相場を逆算できるということになります。ということは、先物市場が開かれていなくても、オプション市場だけから先物相場があらかじめ分かるということです。
(合成ショート)
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(合成ロング)
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- もうひとつ、先物相場(F)−権利行使価格(S)=コールのプレミアム(C)−プットのプレミアム(P)というパリティ公式があります。例えば大豆の8月限の先物相場が37,580円のとき、権利行使価格37,000円のプットのプレミアムが1,940円、同じ権利行使価格のコールのプレミアムが2,350円とすると、先物相場と権利行使価格の差額580円(=37,580円−37,000円)とプレミアムの差額410円(=2,350円−1,940円)とは170円の差があります。
- このように、オプション市場が開かれていれば、ある権利行使価格のコーのプレミアムとプットのプレミアムは分かりますから、その差は簡単に計算できます。権利行使価格は既知数ですから、未知数である先物相場が、この公式からも予想できるということです。この導き出された相場と実際の相場との裁定取引が可能ということです。
- −Q− 現実にうまく行ってますか。
- −A− ベテランのディーラーや外国人はやっているようです。歪みがあれば、反映すべきことを反映していないか、プレミアムがおかしいか、相場がおかしいか、とにかく何かがおかしいのでしょう。歪みがあれば、現実に裁定取引をしなくても、利益の機会です。オプション市場があるからこそ、その歪みが発見できて、平準化される可能性があるということが大切です。もちろん、為替や海外の先物相場は動いていますから、計算の上で出て来た数値とぴったり一致するとは限りませんが、大体の予想がつくということは重要です。中には、オプション取引だけで先物相場ができるという外国人もいるくらいです。
- −Q− オプション市場がまともに機能していれば、いくらでもアービトラージ(裁定取引)ができるわけですね。市場撹乱を抑える効果もありそうですが…。
- −A− すばやい平準化作用は働きますね。オプション市場はヘッジ市場として生まれた理由があり、非常に矯正作用があります。アメリカでは、先物とオプションのピットが並んでいます。先物をやっている人々は絶えずオプション市場を見ていますし、オプションの方も、絶えず先物市場を見ています。というより、シカゴのCBOTやニューヨークのCSCEのピットでは、先物のピットの端に後ろ向きに立って、オプションのピットに向かって大声で合図を送っていますし、オプションのピットのトレーダーも先物のピットに合図を送っています。まさに先物とオプションは「車の両輪」です。
- −Q− マニュピュレーション(価格操作)を狙う邪悪な投機家も、頭脳的に立ちまわらなければ仕事にならないわけですね。
- −A− そうです。大勢の人が見ていますからね。両市場の厚みが十分にあれば、マニュピュレーションができないでしょう。
- −Q− すごい金持ちの仕手でも、個人と社会の戦いになっては到底勝てないですね。
- −A− 相手は無数ですからね。先物市場の相場とオプション市場での価格は、一時的にずれることがあっても、両市場があれば直ぐに直る。というよりも、歪みが利益の機会になります。1つの商品について先物とオプションの両市場があれば、両方で市場操作することは難しいでしょうから、2つの市場がある方がノーマルで、むしろ先物だけの市場の方がおかしいことになる。歪みっぱなしで一晩越してしまうことになります。
- −Q− 力任せにスポット市場と先物市場を抑えてしまえば、あとは思うように相場をリードできる、という考え方は通用しないのでしょうか?
- −A− オプション市場があって、両市場とも十分な流動性があれば、相互に矯正しあうこともできますし、現物を抑えて、先物市場で操作しようとしても、オプション市場まで操作するのは難しいと思います。ちゃんとしたオプション市場のある先物市場の方が正常だと言えます。その意味ではオプション市場を健全に育成することは、健全な先物市場を育成することだと思います。
- −Q− そうなると、すべての先物市場にオプション市場を併せて設けるべきである、ということになりますか?
- −A− すべての商品にオプションがあるべきだと私は思います。そうすれば、どっちかの市場が歪んでいれば、どっちかの市場が直せるからです。それにリスクが裸で歩き回ることがなくなります。
- いまの日本の商品オプションは、法制上、先物の付属物のような扱いですが、私は、オプション市場は独立した方がいいと思います。つまりオプションだけの市場がある方が、相互チェックできるという意味でもいいと思います。アメリカのオプションだけの取引所(CBOE)のように、もっとオプションを研究し開発することが、今後の先物市場の発展のために不可欠だと思います。
- −Q− オプションは、原市場を理論的には超えないといいますが、現実には超えることはありますね。
- −A− 先物でストップがついた時など、オプションの方が一時的に大きくなることもあり得ることで、むしろオプション市場は先物の補完市場のような役割を果たします。先物取引が現物取引を超えることがしばしばあるように、オプションが先物を超えることがあっても、おかしくないと思います。先物もオプションも期限がありますから、いずれは収斂(しゅうれん)します。
- −Q− オプション市場がパンクして、これ以上できないというケースはあるでしょうか。
- −A− オプション市場は、プレミアム売買を基本にしますから、パンクすることは滅多にないと思います。オプション市場は先物の補完市場です。例えば先物市場はストップで、これ以上の商いができない時あるいは節商いで市場が休んでいる時など、オプション市場で先物を代替できるという人もいます。権利行使によって、先物に建玉が移って、建玉制限にかかることもあります。
- −Q− インターネットによるトレーディングが生まれて来て、その弱点を解消すれば、原先よりオプションの方が乗りやすいか?という気もしますが…。
- −A− インターネットは大変な可能性を孕んでいると思います。オプションは連続立会いですし、時々刻々、インターネットで価格が流れますし、複雑な戦略もコンピューターに打ち込んでおけば作動しますから、これからは電子取引が発展する可能性は大きいと思います。先物市場に必要な匿名性が、電子取引でさらに進むと思います。「ブラック・ショールズ方程式」の生みの親であるショールズ博士は1997年度のノーベル賞に輝きました。これは20世紀後半の人類の最大の知的成果だと賞賛する人もいます。近いうちに、インターネットのオンラインでトレーディングが可能になるかもしれませんね。(実際、シカゴ・エキスポ97では、それに近いものがあった。)
- −Q− そうなりますと、大仰な人的配置がなくても、機能する電脳市場の出現といえますね。
- −A− そうです。取引所市場も、常に効率化を考えている必要があります。取引コストの高い市場は敬遠されるからです。その動きはすでに始まっています。
続く
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