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      オプション取引 Q&A(中)    
―おくればせの事はじめ―
柳 沢 逸 司
(23)生産者や加工業者がオプションを使うか?

−Q− 使うのか?という意味は、現に利用しているかどうか、ということです。
−A− もちろん利用しています。生産者や加工業者が、価格変動のリスク・マネージメントとして実際に使うのは、オプションの方が便利だと思います。実例ですが、アメリカのコーンの生産農家が、コーンの種を蒔くときに、例えば10月の収穫時に、幾らの値段でコーンが売れるか分からない。その不安定な価格を先物かオプションでヘッジしたいという場合、オプションであれば、例えばコーンを1ブッシェル当たり2ドル90セントで売りた
いと思うときは、権利行使価格2ドル90セントのプットを買っておくのです。オプションの買いには義務がありませんし、追証の心配もありません。このプットを転売することができます。
 先物でヘッジする場合は、こうは行きません。例えば10月限のコーンを現在の相場で売っておきます。収穫時の納会月が来て、先物の相場が幾らであっても、その相場で反対売買するか現物の受渡しをしなければなりません。先物で益が出れば、現物では損が出ていますし、現物で益が出ても先物で損が出て相殺されることになります。
 農産物は天候に左右されますから、価格変動は避けられません。生産農家が来年も生産するには、価格変動というリスクを何らかの方法でヘッジする必要があります。そこで、アメリカ政府は、シカゴ商品取引所(CBOT)のプット・オプションを使ったのです。議会への報告にもありますが、96年にプット・オプションを買った農家は、これからコーンの現物価格が上がる、そうしたらプットのプレミアムは下がる、ということに気がついてプットを直ぐに手放して、オプションで利益を得て、実際に96年のコーンの現物価格は5ドルくらいまで暴騰しましたから、現物のコーンの販売でも利益を上げたという報告だったようです。
 96年のように、コーンの値段がどんどん上がったときには、プットを最後まで持っていたら、掛け捨てにするしかなかったと思いますが、プットを買った農家は、政府が考えていたよりも、オプションをうまく利用したということでしょう。

−Q− 機敏にうまく立ち回ったわけでしょうが、議会では問題にならなかったのでしょうか。
−A− 農務省が予想したようには農家が振る舞わなかったという報告でした。機敏に立ち回った農家を非難する問題ではないと思います。しかし、こんなに上手に利用できるのなら、権利行使価格の設定を考え直すとか、補助金をもう少し少なくするとかという議論はあるかもしれません。私の想像ですが…。
 加工業者が、例えば1トン30,000円の大豆を仕入れたいと思うときは、権利行使価格30,000円の大豆のコールを買っておけば、大豆の価格変動リスクをヘッジできる。もし現物の仕入れ時に、大豆の価格が30,000円よりも高くなったら、買っておいたコールを転売するか権利行使をすればいいし、現物の仕入れ時に、大豆価格が30,000円よりも安ければ、買っておいたコールは掛け捨てにすればいいのです。その場合のプレミアムは保険料です。先物では、そうは行きませんから、先物よりは安全です。
 全くの余談ですが、昔、ニクソン大統領のときに、大豆の禁輸がありました。日本は年間300万トン以上の大豆を輸入しているのですから、それが入って来ないことになれば、ひっくり返るようなことです。それから商品協定が不信感を買うようになったのではないかと思いますが、そんな乱暴なことはもう二度としないと、アメリカ政府はいろんな機会に表明していますし、あれからブラジルなどの南半球の国々が大豆の生産に力を入れるようになりましたから、もうあんなことはないだろうと思います。

−Q− 対ソビエト政策のとばっちりで日本向けの大豆も止められてしまったニクソン・ショックのことはよく憶えています。日本側の要求を容れて禁輸解除したわけですけど、ニクソン政権の誰かが、そのとき「日本ではソイビーンを人間が食うのか、知らなかったなあ」と言ったらしくて、それもショックでした。それはそれとして、オプション取引の一番の売り物は「危険を移転する」ことですか。オプションの買手の立場で考えることですが、リスクを他人にお任せ、というところが何と言ってもうまい話で…。

−A− その通りです。リスクを他人に移転するのがオプション取引ですが、移転するにはちゃんとプレミアムをつけているんですね。もちろん移転するリスクの大きさも、したがって支払うプレミアムの金額の大きさも、権利行使価格の設定によって選択できるのがオプションの特徴です。この点も、先物によるヘッジと違う点で、リスクのどのくらいは自分で負担し、どのくらいは市場に出して移転するか選択ができるわけです。
 権利行使価格と、プレミアム金額の大きさと、移転するリスクの大きさとは密接に関連しているわけです。それだけのリスクを負担するには、そんな小さなプレミアムではいやだとか、そんなにプレミアムが高いのでは、リスク負担は自分でやるとか、実際は市場で納得づくでするのですが、「ブラック・ショールズ方程式」が出てからは一定の理論値が算定されることになりましたから、市場でのプレミアムとリスクの関係に非常に信頼性が増したのです。どの権利行使価格を選択するかの問題だけになりました。あとはコールのプレミアムが上がりそうか、プットのプレミアムが上がりそうかを選択します。

−Q− 権利行使価格の算出方式に法則というものがあるのでしょうか?
−A− 権利行使価格でなくて、プレミアムを算出するものです。プレミアムも、恣意的に決まるのではなくて、ブラック・ショールズ方程式によれば、市場参加者が信頼できる数値が理論的に算出されるようになったということです。

−Q− 現に東京市場も、あまり外れたところは商いができていないですものね。
−A− 理論値を参考にして、ということを東穀取のマーケットメーカーの皆さんが守っていてくれるからでしょう。
続く

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