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      オプション取引 Q&A(上)    
―おくればせの事はじめ―
柳 沢 逸 司
(12)オプションは経済的にどんな意味があるのか?

−Q− マネーゲームの対象としてはオプションも十分面白い、というような言い方をする向きがあります。本来の意義の説明としては、どういう言い方になりますか。
−A− オプションは価格変動のリスクのヘッジの手段ですね。現代人は、商品価格はもちろん、株価も金利も為替も、常に価格変動というリスクにさらされています。例えば為替は、しょっちゅう変動しています。為替は通貨の交換比率ですが、通貨の評価でもあります。ということは、われわれの富の評価が、しょっちゅう変わっているということです。
 いま1ドル100円であれば、1万ドルの物は100万円で買えますが、1ドル120円に円が下がれば、同じ1万ドルの物が120万円出さなければ買えないのですから、円の価値が下がれば下がるほど、商品の名目価格は上がる、例えば1トン300ドルの大豆は30,000円から36,000円に値上がりします。1トン200ドルの粗糖は20,000円から24,000円に値上がりする勘定です。
 こういう為替変動をどうヘッジするか。為替が動くと、とくに国際商品の値段は動く。為替変動の激しい現代は、どうしてもリスク・ヘッジが重要になるのです。オプションはリスク・ヘッジのツールです。先物もリスク・ヘッジの手段として使われます。円が動けば、大豆や粗糖やコーンの商品価格は当然動きますから、商品そのものを求めるのでなく、財産の価値を維持するためにも、先物は使われます。
 戦後しばらくは、物もお金も少なかった時代には、価格一定の配給制でしたし、金利も一定でした。為替も長い間1ドル360円の時代があったのです。そういう価格一定の時代は遠い昔のことになりました。
 現代は変動の時代ですし、為替も金利も、価格は市場で決めた方が公正で効率的だということになって、にわかに動き出しました。すべての現代人が価格変動というリスクにさらされることになりましたから、当然、このリスクをどうヘッジするかが重要な問題になってきたのです。
 ショールズ先生も、オプションがリスク・ヘッジの手段として、新規上場商品を増やすよりも、効率的だと言っています。アメリカでは、先物の証拠金もスパンが導入されて、ネット証拠金で済むことになっています。東穀取のオプションと先物の組合わせは、ネットまでは行きませんが、かなりこれに近いものになっています。リスク移転という点では、オプションは経済的に効率的な役割を果たしています。

−Q− 現物のオプションは、実体的に賭博の匂いがつきまとうようですね。オランダのチューリップ球根フィーバを例に引くまでもなく、有名な事件がいくつかありますし、将来的にもひとつの問題点であろうか?という気がします。
−A− 日本では賭博は一般に禁止されていて、特別に競馬とか宝クジとか、個々の法律で許されているものがあります。先物取引も、法律で認められたもの以外は、先物まがいの行為を行なったら違法とされます。オプションは法律で認められた取引で、賭博ではありません。むしろ保険に近いと思います。価格変動は現実にあるリスクですし、最近はどんどん増えているわけです。オプションはそのリスク・マネージのためにあるのですから、人為的にリスクを創り出す普通の競馬や宝クジとは違います。
 もうひとつ、オプションが競馬などと違うのは、競馬では優勝か準優勝か、とにかく上位に入らないと駄目ですが、オプションでは、順位を上げればいいのです。例えば、第5位の安い馬券を買って、その馬が第3位に入れば、その差が益になるのますし、オプションでは、逆に第3位少し高い馬券を売って、その馬が第4位なれば、その差も益になるのです。
 現物を取引していない人、いわゆる当業者でない人も、現代人は日々、円の価値の変動リスクにさらされているのです。この円の変動リスクを先物でヘッジしようとすると、先物に内在する不測のリスクを負うことになります。その点、オプションを買ってヘッジすれば不測のリスクに見舞われる心配はありません。よく先物の当業者の利用度が問題にされますが、先物のリスクは現物取引で相殺するしかなく、現物取引をしていない人は、リスクを相殺できず、まともに損失を被ってしまうことからも言われることでしょう。
 実際には、オプションをヘッジに使わないで、全くのスペキュレーションとして使う人もたくさんいます。スペキュレーターは市場には不可欠な人々です。もしスペキュレーターがいなければ、市場の流動性の厚さが十分でないでしょうし、市場では、ヘッジャーはリスクを移転しようとする人で、スペキュレーターはそのリスクを取るリスク・テイカーなのです。当業者が売りたいと思うとき、買手となるのはスペキュレーターです。当業者が買いたいと思うとき、売手となるのがスペキュレーターです。当業者とは反対の方向を向いているようなスペキュレーターの存在が市場には不可欠なのです。

−Q− 正当な存在理由がオプションにはあるということが、よく分かりました。しかし、賭博の手段になりうる意味があるから、一定の規制は必要ということでしょうか。
−A− 野放しは危険でしょう。法律でやるかどうかは別にして、取引所の市場で行なう取引は、厳格な標準化が要請されています。この標準化が先物取引の発展に役立ったのです。きちっと違約の基準も定められています。こういう標準化や基準がいやな人は、取引所の外で取引するしかないのですが、日本の場合は、法律で禁じられています。
 アメリカで長い間、オプションが禁止されてきたのは、賭博性の疑いのほかに、オプションを売るだけ売って、プレミアムを稼ぐだけ稼いで、国外に逃げた不届き者がいたからと言われています。それが「ブラック・ショールズ方程式」が出た1973年からオプションが認められて、再開され、いまや巨大な市場となって、急速に発展しているのです。

−Q− 何と言いましょうか、理由のあるものは必ず育てるアメリカという風土の素晴らしさですね。
−A− そう思います。アメリカは自由市場経済の旗手だという自負がありますね。先物やオプションは自由市場経済の灯火です。日本でも戦後、統制が解除された物資からだんだんと先物市場に上場されていったのです。先物を知らない人は、いまや時代遅れです。アメリカでもヨーロッパでも、価格支持に使う国家財政が逼迫してきたので、やはり価格は市場に任せた方が効率的であると判断されることになりました。
 物資や資金が少なかった時代の配給制度よりも、市場メカニズムを使った方が公正でもあるということに気がついたのです。そこへ客観的なプレミアムの計算式が出て、進展したのだと思います。いわゆる当業者だけの仲間うちの相場でなく、スペキュレーターや一般消費者に至るまで、いろんな見方を持った人々が市場に入って価格形成に参画した方が、より公正で効率的だということが理解されたということでしょう。
 話はややずれますが、かつてシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)のゴーラムという部長の話では、アメリカの新規上場と言うのは、先物でブロイラーを5年間のうちに2回も上場して、2回とも失敗したというのです。2回目のときは、価格もよく動いていて、当業者も積極的でしたが、上場した途端に、価格がぴたーっと動かなくなってしまって、半年くらいでやめたと言っていました。それでも、けろっとしていて「価格が動くようになったら、またやりますよ」と、至って柔軟に考えているようですね。

−Q− その辺は特に優れたところだと思います。
−A− 価格というのは安定しているときもあれば、変動するときもあると、当たり前のことを当たり前に考えているのですね。

続く

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