(9)本当にリスク・マネージメントの役に立つか?
- −Q− 可能性としての有用性ではなく、実際にリスク・マネージメントに使えるかどうか、という問題はいかがですか。
- −A− さきほど申しましたように、オプション市場は、リスクの流通市場です。先物取引も長い間、現物価格のリスク・マネージメントの機能を果たしてきましたが、先物では、オプションのようにリスクだけを切り離してプレミアムをつけて市場で流通させる仕組みではありません。売手も買手も両方がリスクを持ち続けて、両方がリスク負担を行ない、したがって両方が追証の心配をするのです。
- 近代のオプション取引では、リスクの部分だけを切り離して市場で流通させることに成功しましたから、リスク負担をするのは、リスクの買手(オプションの売手)だけになったのです。この点が、先物と非常に違うオプションの革新的なところです。しかもオプションでは、引き受けたリスクをいつまでも持ち続ける必要はなく、リスクに新しいプレミアムをつけて、もう一度、市場に出してもいいのです。また、どれだけのリスクを市場に出して、どれだけのリスクを自分で負担するかという、まさにリスク・マネージメントを弾力的に決められるのも、リスクの売手(オプションの買手)の選択にかかっています。
- オプション市場はリスクの流通市場ですから、一度リスク・テイカーになったら、最後までずっとリスク・テイカーのままでいる必要もないのです。そのリスクが大きくなったら、リスクを市場で転売することができます。オプションの売手も、そのオプションを買い戻すのです。リスクが大きくなるということは、原市場の価格変動性(ボラティリティ)が高くなるということです。
- 逆に、リスクの売手も、売ったリスクが小さくなったら、そのリスクを買い戻すことができます。つまりオプションの買手が、そのオプションを転売するのです。それがオプション市場の特徴で、オプション市場は買手にも売手にもイーブンチャンスがあるのです。
- いま申しましたように、オプション市場では、リスク(ボラティリティ)の小さいときに買って、リスク(ボラティリティ)が大きくなったら転売することで、いわばリスクの鞘取りというか、プレミアムの鞘とりで利益の追求ができるのです。
- そういう意味では、先物のリスクを分離し商品化して、プレミアムつきのリスクを流通させるオプションの登場によって、初めて本当に実用的なリスク・マネージメントのツールを手にすることになったといえると思います。
- −Q− お話を伺う限りでは素晴らしいシステムですが、本当にリスク・マネージメントのツールとして効率的かどうか、にはなお疑念が残ります。
- −A− オプションがリスク・マネージメントのツールとして、いかに効率的かは、必要な資金額で分かります。先物では1つのリスク、例えば大豆1枚の価格変動のリスクをマネージするのに、先物を使う場合には、先物の売手と買手の両方が当初証拠金として、例えば70,000円ずつ、合計140,000円預託する必要があります。しかし、オプションではオプション
- の売手だけが、先物の半分、つまり35,000円で済むのです。追証の心配も、売手だけがすればいいのです。もちろんオプションの買手はプレミアムを支払う必要はあります。そのプレミアムも低いのでもいいのです。合計のコストは先物に比べて当然少なくて済みますから、商品先物オプションは1枚から参加できるのです。オプションはリスク・マネージメントのツールとしても、それだけ効率的と言えるでしょう。
- 現代社会は、株式や商品や、為替も金利も、日々、価格変動します。価格変動のリスクは、決してなくなりませんから、この価格変動のリスクを、どう把握し、どう移転するかがリスク・マネージメントでしょう。日本でも、広い意味でのリスク・マネージメントが、大きな商業取引になりつつあると思います。その際、大事な事は、いかにコストが安く、効率的で、有効な方法を選ぶかということです。
- 最近のように、為替が目まぐるしく変化するときは、とくに大豆や粗糖やコーンなどの国際商品は、為替の影響を多分に受けて、相場が大変動くことになるのです。例えば、東穀取の大豆オプションの現市場は、米国産大豆の先物ななんですね。ですから例えば、円が1ドル100円から1ドル120円に下がると、大豆の需給に変化がなくても、直ちに大豆の相場は30,000円から36,000円に上がり、1トン300ドルの大豆は、先物相場が30,000円から36,000円に上がり、1トン200ドルの粗糖は、先物相場が20,000円から24,000円に上がることがあるのです。
- オプションを売って、リスクを引き受ける方としては、リスクの大きさに見合うプレミアムがついていなければ、そのリスクを引き受けようとしないでしょう。一方、オプションを買う方としては、あまり高いプレミアムを支払うのでは、リスクを市場に出すことをやめるとか、プレミアムを減らすために、市場に出すリスクの量を加減するかもしれません。結局、移転するリスクの大きさに見合うプレミアムの大きさも、リスクの流通市場で決められる水準になりましょう。
- ところが、このプレミアムの大きさを理論的に算出する方程式を、アメリカの2人の学者、フィッシャー・ブラック博士とマイロン・ショールズ博士が、1973年に発見したのです。それが「ブラック・ショールズ方程式」と呼ばれるものなのです。以来、この方程式で計算されるプレミアムの理論値が、オプションの適正な価格として市場で信頼されるようになったのです。
- これで、価格変動というリスクそのものの発生はなくすことはできませんが、移転するリスクにつけるプレミアムの大きさは理論的に計算されることになったのです。移転するリスクにつけるプレミアムの適正な大きさが計算されるようになると、これを取引に応用しようとする人々が現われました。それがオプション市場の再開になったのです。リスクにプレミアムをつけて流通させ、リスクを買う人もいれば、売る人もいるというオプション市場が出来上がって、リスクが取引されるようになって、リスク・マネージメントに実用化されることになったのです。そして、こっちの方が、コストも安く、他のリスク・マネージメントのツールよりも効率的で、多様性に富んでいることが分かったのです。
続く
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