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      オプション取引 Q&A (上)    
―おくればせの事はじめ―
柳 沢 逸 司
(1)オプション取引を始める人の、
   最初に眼をつけるべき点は? 

−Q− 原始人にオプション取引を分からせ、本物の興味を抱かせるのは大仕事です。また、手間ひまのかかることですが、ひとつよろしくお願いします。
 そのかわり、この試みが成功すれば、無数にいるであろう潜在利用者の掘り起こしにつながる可能性を生じます。ともかく市場側としては、大損はない話。生活の中のオプションではないかと…。冗談はさておき、適当なところから説明し始めてください。
−A− まず「オプション」とはどういうものか、ということから始めたいと思います。なるべく日本語で説明せよというご要望ですが、訳していいものと訳さない方がいいものとがあると思います。例えばオプション取引の「オプション」という言葉ですが、これは「選択権」と訳されることがしばしばですが、すべてこんなふうに訳語を当てはめて行こうとしますと、かえって話が分かりにくくなったり、誤解するもとになったりして、混乱するもとになりかねません。そんなわけで、これからお話して行く途中で、カタカナは、しょっちゅう出てきますが、おゆるし願いたいと思います。
 「オプション」という商品は、「コール」は「コール」という商品、「プット」は「プット」という商品というように、むしろ別個の商品と割り切って考えた方がいいと思います。コールを買う権利とか、プットは売る権利とか日本語で呼ばない方がいいと思います。
 大豆や小豆など商品には必ず価格があり、価格が上がったり下がったりすることで、それに関わっている人は、得をしたり損をしたりします。オプションという商品も、価格が上がったり下がったりして、得をしたり損をしたりします。いずれも、安いときに買って高くなったら転売する、あるいは高いときに売って安くなったら買い戻す、いいかえれば、これから高くなりそうだと思ったら買って高くなったら転売する、あるいはこれから安くなりそうだと思ったら先ず売って安くなったら買い戻す、そうすることによって利益を得ようとする取引がオプション取引で、この点は先物取引と全く同じです。
 オプションの価格は「プレミアム」と呼ばれます。オプション価格が上がったり下がったりしますので、得をしたり損をしたりするのです。先物相場の方は、大豆とか粗糖とかコーンとかの現物価格が上がったり下がったりするのと大いに関係がありますが、オプション価格も、先物相場が上がったり下がったりすることと関係しているのです。

−Q− なるほど。「プレミアム」というものが、とにかくあって、これでリスクをオプションの売手(保険屋さん)に肩代わりしてもらう。自分は儲かる方向の権利だけを握っていようという寸法ですか?
−A− その通りです。オプションの買手の立場は、「コール」にしろ「プット」にしろ、そういうものです。それらの仕組みについては、順を追って説明したいと思いますが、オプションを考えるとき、もうひとつ大事なことがあります。
 それはオプションという商品には、「寿命」というか「時間」の要素が非常に大切だということです。もちろん先物取引にも「限月」という期限がありますが、オプションという商品は、時間の経過とともに価値を失って行くという性格をもっているのです。市場が開いていない時も、休みの日も、時間だけは経ちますから、オプションは、どんどん減価して行くのです。

−Q− オプションの「コール」にしろ「プット」にしろ、買いポジションを持っている人は、寝ているうちにもチャンスが少なくなるという話ですね。面白くない。
−A− これは「オプション」という商品の性格ですから仕方ありません。時間が経過すると価値が減って行くというオプションの特性は、オプションの売手にとっては有利なことです。オプションを売っておいて、あと何も起きなければ、最初にもらったプレミアムはそのまま売手のものになるのです。この点はむしろ一般の保険と似ています。ですから、よくオプションの売手は「時間」を売っている、オプションの買手は時間を買っている、といわれます。オプションは時間との競争なわけです。
 それでオプション取引は、時々「兎と亀」の話に喩えられることがあります。亀つまり「時間」は、コツコツ短い脚で、しかし少しも休まずゴールに向かって前進するのに対し、兎つまり「リスク」の方は、ここでは価格変動のことですが、昼寝したり、思い出したように跳ね起きたりする。おとぎ話では、必ず亀が勝ちますが、オプションでは亀の必勝とは限りません。気まぐれな価格変動という兎のリスクが起き上がって走り、勝つことがあるのです。兎の跳ね起き具合にもよりますが、オプションの買手が有利になります。

−Q− オプションの買手は、権利放棄も自由だそうですが、はじめに支払ったプレミアムの中に、逃散自由という料金が含まれているわけですか。
−A− さきほどオプションを訳して「選択権」という言葉が出ましたが、オプションは「権」といわれるように「権利」の取引でもあるのです。先物取引では、期限が来ますと、買手も売手も必ず、現物の受渡しをするか、損でも反対売買するかしなければなりません。そういう意味では、先物取引は「義務」の取引なのです。ところがオプション取引では、オプションの買手が持っているのは、権利だけですから、権利を行使して損をするようなときは、何もしないで、放ったらかしにしておいてもいいのです。つまり期限が来ても、損をしてまで片づけなければならない義務は一切負っていないのが、オプションの買手の立場なのです。権利放棄も買手の自由なのです。
 これに対してオプションの売手の方は、オプションを売ったときにプレミアムを受け取って、リスクを引き受けたのですから、オプションの買手が権利行使をするときは、必ずそれを受ける義務を負っているのです。

−Q− でも途中で手段を講じてリスクをかわすことはできましょう?買手の権利行使が来て忙しくなる前に、どうとでもリカバリーの手を打てそうなものではありませんか?
−A− もちろん出来ます。オプションの売手は、売ったオプションを買い戻して、競争から降りてしまえば、レースは終わりです。権利行使にも当たりません。ここが一般の保険と違うところでして、オプションの売手は、期限まで、ずっと売手でいる必要がないのです。途中でレースを降りることも自由にできます。

−Q− 普通の先物取引では、儲かるかもしれないし、損になるかもしれない。どちらの可能性もあるよという当たり前の話。これは常識になっていますね。
−A− そうです。どなたもご存知のように、取引には損するときも得するときもあるというのが常識です。オプション取引では、オプションの買手は、プレミアムを支払ってオプションを買えば、あとは一切の義務を負っていないというのが特徴なんです。得をするか、どのくらいプレミアムを失うかです。
 なぜ、そういうことが可能になったかと申しますと、先物は「利益の部分」と「リスクの部分」とで構成されていて、いわば両方が同居しているのですが、オプションでは先物の「利益の部分」と「リスクの部分」とを2つにちょん切って別居させたのです。そして、先物の「利益の部分」つまり権利をオプションの買手に、「リスクの部分」つまり義務を売手に持たせるようにしたのです。それで見方によっては、権利の取引とも言えますし、リスクの部分だけを取引の対象にした、つまり「リスクを商品化」したとも言えるのです。(下図参照)

(先物の売り)
(先物の買い)
 


−Q− ああ、リスクを引き受けてもらう方が、プレミアムという代金を支払う、という仕組みですね。
−A− その通りです。リスクを引き受けてもらうには、只というわけにはまいりません。それで、このリスクを引き受けてもらうかわりに、プレミアムをつけるのです。どのくらいのプレミアムをつけるのが妥当か、ということを理論的に計算する方程式を生み出したのがアメリカの2人の博士でした。その方程式は「ブラック・ショールズ方程式」と呼ばれるものですが、このブラック博士とショールズ博士については、あとでお話します。(H、I参照)
 先物相場や選択する権利行使価格によって、プレミアムを理論的に算出する算式が出来たおかげで、オプション取引が現代の巨大な市場になる基礎ができたわけです。今から、わずか二十数前の11970年代の初めのことで、現代のオプション取引がアメリカで再開されたのです。

−Q− 考え方がすばらしいですね。利益部分とリスク部分とを分離して、それをプレミアムという名の保険料で売り買いを可能にする、というのが傑作です。アメリカ人というのは、時々とんでもないことを思いつくんですね。
−A− 「リスクの商品化」というのは、全く素晴らしいことを考えついたと思います。考え方は、昔からあったようですが、リスクの大きさに見合ったプレミアムを合理的に計算する方程式が発見されて、格段にオプション取引の信頼度が増したのだと思います。

−Q− 大づかみにオプション取引なるものを話していただいて、何となく分かったような気がします。けれども、実際には入り口が分かっただけでしょう。
 これら、ポイントごとにやって行こうと思いますので、よろしくお願いします。「選択権」、「プット」、「コール」というふうに、ひとつずつこなして行きたいのです。
−A− 分かりました。なるべくうまく説明できるようにいたします。

続く

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