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堂島取ザラバ導入1年、振り返るシステム選定のプロセス
コメ先物本上場と株式会社化目指し、改革断行

 大阪堂島商品取引所がザラバ取引システムを導入してから15日で1年が経った。
ザラバシステムはSBI系の「]-Stream」だが、現在まで特に目立ったトラブルもなく稼動している。昨年はザラバ導入後の翌週22日から秋田こまちを取引を上場したが、残念ながら出来高はそれほど伸びていない。今回導入した、現在コメ先物は4度目の試験上場という崖っぷちの状況で、堂島取は株式会社化への組織変更とコメ先物市場の本上場を目指し改革を断行する方針である。今回は、堂島取がザラバシステム導入に至った経緯を振り返り、SBIグループについても商先業界との関わりを解説する。

コメの本上場申請、土壇場の横ヤリで3度目の試験上場に

 堂島取ザラバシステムに関する一連の問題を時系列で追ってみると、まず事の発端はコメ先物が3度目の試験上場という異例の措置となったことに起因する。

 2017年7月11日、堂島取はコメの本上場申請を行った。通例であればその後農水省の審査を経て認否が判断されることとなるが、土壇場で横ヤリが入り事態は急展開した。それは7月21日に開催された自民党の農業基本政策検討プロジェクトで、出席議員から本上場申請を見送るべきだとの意見が出たことから、自民党は27日付で「本上揚申請は認めがたい」とする申し入れを農水省に提出したことである。

 しかし堂島側も本上場申請の根拠は7月3日のコメ試験上場検証特別委員会(委員長:茂野隆一筑波大教授)の報告書による「本上場への認可基準を満たしており、本上場の申請が望ましい」とする提言だった。加えて岡本安明理事長も「生産、流通の現場に著しい支障を及ぼしているとの具体的な事実は確認されていない」と6年間の試験上場期間を振り返り、本上場の環境は整備されたとする認識を持っていた。

 ところが横ヤリとなった申し入れによれば、生産者の参加が少ない、米政策が変わる30年産米の動向を見極める前に拙速な判断をするべきではない、などを理由に本上場への移行を見送るべきとの見解が述べられている。

 堂島取にとってもプレイヤーの少なさを突かれるのは痛いところで、コメ先物についてネット取引ができないという大きな弱点を解消させるため一刻も早く取引システムをザラバ化すべきという声が業界内には少なくなかった。

 とにかく堂島取はこの申し入れを受け、7月28日に臨時理事会を開催しコメ先物を存続させるため、試験上場の再々延長へと方針転換した。昨年8月4日の臨時総会に諮り、同日中に申請を行った。農水省は3日後の7日、これを認可している。

コメのザラバ化検討開始、急転直下でSBlグループの登場

 延長直後の2017年9月、早速動きがあった。堂島取から東商取のシステム
「J−GATE」をコメ先物に活用したいとする要請を受けたと、東商取の濱田隆道社長が明らかにしたのである。両取引所で要件定義などの具体的な議論を進め12月上旬にコストなどの細部を詰めるという予定も固まっていた。

 堂島取が新規にザラバシステムを開発するよりも費用負担が少なく、東商取のJ−GATEにコメを乗せた場合、商先業者が堂島取用に新たな回線を準備する必要がなくなるため、ほとんどの商先業界関係者はこれを既定路線とみて疑う声はなかった。

 しかし11月、突如SBIの名前が商先業界を席巻することとなった。堂島取はコメ
先物のザラバ化に際し、当初4社の取引システムを候補に挙げていた。いずれも堂島側から見積もりを依頼したもので、最終的に東商取の「J-GATE」 とSBIの「X-Stream」の二択に絞られたる
このため堂島取は11月30日、日本商品委託者保護は基金の事務所内で会員に向け説明会を開催し、意見を求めている。出席者によると大まかな反応は「どちらのシステムでもいい」しいうものであったが、最も上った意見は「とにかくコメ先物がの流動性増やしてほしい」との要望だったという。

 政府の申し入れも会員の要望も、立場は違っても結局は流動性の向上いう一点に集約されるわけである。

X-Stream導入で業界が反発、東商取も堂島取批判

 堂島取が東商取にJ−GATEの利用を要請をしたのは9月だが、「時限的な余裕がなかった」(堂島取関係者)としながらも、「もしJ−GATEを断って他に良いシステムが見つからなかった場合、大きな機会損失になる」との理由で、違約金条項を付けた上で申し入れしている。そのリミットが同年12月8日であり、堂島取は直前となる5日の臨時理事会で取引システムの選定にf臨んだ。

 結果、同日の決定事項は「J−GATEを使用しない」というもので、堂島取のシステムは@SBIの]-Streamを採用、Aザラバ化自体を見送る−という二択に絞られた。ただ現実的にAの方向はあり得ず、予定どおり同月20日の理事会で@が採択された。

 一方、東商取にとっては寝耳に水といってもいい話で、濱田社長は「正しいプロセスを辿った形跡が感じられない」と堂島取を手厳しく批判している。

 堂島取のザラバ取引システム選定に関し、商先業者側との対立が深まったのは、システム投資の問題によるものである。当初、東商取の現行システムである日本取引所グループ(LPX)のデリバティブ「J-GATE」が有力とされていたが、堂島取執行部がSBIの「]-Stream」導入に傾いたことで「J−GATEと]-Streamというシステムの二重投資になる」ことが反発の理由であった。

 東商取の濱田社長は取引所運営におけるシステム選定の重要性を強調した上で「正しいプロセスを辿った形跡が感じられない」と堂島取の対応を批判したが、これとは別に、SBIに関しそもそもネット証券という特性上、堂島取の流動性向上への貢献は薄いとみている。

 その根拠として東商取の出来高構成を例に挙げている。東商取の出来高は海外からの注文が半分を占め、日本の個人投資家からは約3割という状況だ。内訳はネットが2割、対面が1割で、ネットからの注文はほぼ金と白金に集中している。つまり為替の影響を受ける商品に限られており、例えネット証券の顧客にコメ先物の門戸を開いても、コメは為替の影響を受けにくい。

 このためコメの日中値段が動く可能性は低く、従ってネット証券の顧客は積極的に取引をしないだろうというのが濱田社長の見方であった。

 その上でシステム選定に関する「正しいプロセス」として、東商取ではJ−GATE選定に至るまで3年の検討期間を費やしており、その間様々なベンダーに見積もりを依頼している。終始慎重な選定方針で臨む「公平で公正なプロセスが重要」(濱田社長)の東商取からすれば、堂島取の対応はいかにも拙速に映ったようだ。

 ただ、堂島取にもゆっくり事を運べない事情があった。頼みの綱であるコメ先物について、試験上場の再々延長期限が1年8カ月弱と、時間的な余裕がまったくないためだ。2017年8月反対派の横ヤリが入ったことで念願のコメ本上場が叶わず、ただでさえ試験上場の再々延長という異例の状況に甘んじている。

 これ以上の延長は厳しい状況で、堂島取は本上場可否への重要な判断基準となるコメ先物市場の流動性向上について、一刻も早く改革を進める必要があった。その最重点事項がコメ先物のザラバ化だが、これが出来高増に繋がらなければ、堂島取の経営を圧迫するだけの結果となる。

 こうした状況下で、堂島取がSBIグループの持つSBI証券400万口座一縷の希望を
託すこと自体は、取引所経営の観点で捉えれば座して死を待つより、発展的な決断といえただろう。

 そもそも騒動の原因となっているJ-GATEも]-Streamも、同じナスダックOMXの製品で、システムに詳しい商先関係者によれば「J-GATEは日経225先物など大型市場用のシステム、]-Streamはそれよりややコンパクトなシステム」と位置づけられるという。

 ただJ-GATEは東商取がJPXから借りている都合上、例えぼ商品の追加や設計の変更なども手軽にできるわけではないようだ。

 一方でSBI側は堂島取に対し、@テスト期間を考慮しなければ1週間で導入できる、A現株をやってもいるので、銘柄の追加や変更はお手の物−などと]-Streamの柔軟性をアピールした模様だ。

SBlが国内商先市場に参入、他社を圧倒する格安手数料

 SBIグループが国内商先事業に最初に本格進出したのは、2004年だった。グループの商品先物部門を担当するイー・コモディティー(後のSBIュユーチャーズ)が東京工業品取引所(現東商取)、東京穀物商品取引所、中部商品取引所で受託会員資格を取得し、それまでの取次業務から受託業務に方向転換した。ビジネスモデルの要諦はネット証券分野で成功を収めてきた「他社の追随を許さない低価格な手数料」で、これを武器に「テクニカル分析などによるリサーチで顧客開拓を図り業界を席巻する」と強気の姿勢で臨んだ。当時の一般的な商品取引員とは異質な経営手法ではあったが、これは翌05年年初から商先委託手数料の自由化が施行されることを受けてのものだ。

 この当時オンライン証券分野では松井証券の独走ぶりが注目を集めていたが、実際の決算数値ばSBIの証券部門(イー・トレード証券(現SBI証券)など4社計)がすでに上回っていた。例えば04年9月中間決算の営業収益を比較すると、松井189億円に対しSBI側の4社計では192億円と松井を超えていた。イー・トレ証券単体では121億円と水をあけられていたが、総合口座及び信用口座の口座数計、リテール株式売買代金シェア、預り資産はすでに松井を大きく引き離していた。

 老舗の松井を当時新興のSBIグループが〜3年という短期間で追い抜いた背景には、以下5項目の経営戦略があった。それは@総合金融としての幅広い企業グループの形成、Aグループ内にファンド発行体を有し豊富な資金力の形成、Bグループ及び企業の構造を多重形成し、収益部門が収益途上部門をカバーする構造形態、C収益途上部門を非採算部門とせず、成長途上と位置づけ積極的な支援、D企業間競争となる主戦揚では他社の追随を許さない低料金体系で価格競争に打ち勝つ一という強気の経営戦略である。

 こうした中でイー・コモはSBI(当時ソフトバンク・ファイナンス。グループ)と東京ゼネラル・グループとの共同出資で2000年10月に設立された。その後東ゼネの撤退により、事実上SBIグループの傘下に入っている。

 SBIグループの総帥である北尾吉社長は当時の商先業界に対し「商品先物の市場が停滞しているのは業界モラルの他に、投資家へのアプローチにおける経営手法に問題がある」と語っている。さらに「商品先物市場は存在価値があるにもかかわらず市場が伸び悩んでいるのは、モラルや経営手法に問題がある」と指摘している。

 当時商先業界にとって「台風の目」といわれたSBIだったが、それから僅か5年で業界から撤退した。その際北尾社長は「主務省に業界を育てようという意欲が感じられない」と不満を述べ、先行きについても悲観的な見方を示している。09年(平成21)といえばリーマンショックの翌年で商先業者の廃業もピークに達していた時期でもある。

王者SBl強気の経営戦略、堂島の救世主となるか?

 その後SBIグループは商先業界に見切りをつけたが、一方ネット証券業ではSBI証券が2017年に400万口座を突破し、口座数で三大証券の一角である大和証券を抜いた。営業収益では同年の上半期決算(9月)で528億円と2位の楽天証券(252億円)を2倍、3位の松井証券(145億円)を3倍以上引き離している。

 撤退以来、国内商先の復帰に関して何度か質問したことがあったが、その都度北尾社長は否定してきた。それが今回SBI系のシステム「]-Stream」を大阪堂島商品取引所が導入したことで再度SBIグループが国内商先業界に参入する運びとなった。

 肝心のシステムについて、SBIのシステム関係者によると国内商先のシステムは「そこまで大変ではない」という。その上で証券を含め年々高額化している取引所のシステムについて「既存システムが制度的に守られすぎている」と苦言を呈し、「もっと安くできるはずだ」と断言している。

 またSBIシステムの強みについて「海外の商先についてスペシャリストが多数おりいろいろな試みが可能としており、将来的な展望として「クリアリングもやっていきたい」と方針を述べている。

 今後SBIは堂島取へのバックアップ体制をこれまで以上に強化する方針だ。すぐにSBI証券の顧客がコメ先物市場に参加するわけではないが、堂島取の株式会社化及びコメ先物本上場にSBIは必須の存在だ。農水省が今回例外的な4度目の試験上場延長を認めたのもSBIのサポートを前提としたもので、今後はより関係を深めていきそうだ。




記者発表はJPXに一元化、幅広い分野に対応可能か?

 東商取はこれまで毎月第2木曜日に取締役会を開き、その後16時半から記者会見を開いて決議事項などを発表していた。それが今般日本取引所グループ(JPX)の子会社となったことで、10日が最後の定例会見となった。今後は商品先物関係のニュースもJPXが公式発表の窓口となる。

 JPXも毎月取締役会後に記者会見を開いている。会場は東証アローズで、次回開催は30日15時半からとなる。記者会見は取引所主催と記者クラブ主催の2種類あり、前者は広報担当の部所を通じて基本的に誰でも参加可能だが、後者はクラフブ会員でないと参加できない。例えば東証で行われる上場各社の決算会見などは兜クラブ主催のもので、会員以外は参加できない。

 JPXの定例会見は取引所主催なので、商先マスコミでも参加は可能だ。だが、今後想定し得る問題点もある。証券関係から商品関係まで幅広い分野が清田瞭CEOの会見に集約されることで、@発表の時間が長くなり質問の時間が減る、A市場規模の関係上、商品先物ニュースの扱いが減る、B証券出身の清田CEOでは商品先物の細かい部分に至る説明が難しい−といった点だ。

 もちろんサポートで誰かが付いたりすることもあるだろうし、東商取も個別取材には応じる方針だが、月1回の公式会見だけでは消化不良を起こす懸念が拭えない。


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 編集発行人:村尾 和俊
(2019/10/15 2959 掲載)