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【コメ先物市場本上場への道】No.25
中国がコメ価格覇権争いに参入へ
日本の主食価格が中国主導、悪夢の事態が目の前に

 中国証券監督管理委員会(証監会)が5日付で大連商品取引所(DCE)のジャポニカ米先物取引を認可したと、新華社が8日に報じた。8月16日から取引を開始する。ジャポニカ米とは日本の主食に用いられているコメで、当然日本のコメ農家が生産するのもほとんどがこの品種である。奇しくも日本では大阪堂島商品取引所がコメ先物の本上場申請を16日の総会で決議し、農水省に申請する見通しという状況にある。コメは現在世界中に有力な先物市場が存在せず、だからこそ中国がその覇権を取りに来たという見方ができる。日本の主食米の値段が中国で決まる、そんな現実が迫っている。

割安の外匡l産米と勝負する国産主食米の行方

 日本の2018年(平成30)におけるコメ生産量は778万dで、都道府県別では新潟県の62万トンがトップ、以下北海道51万d、秋田49万d、山形37万dと続いている。これを世界と比較すると、世界全体(2017年、以下同)では7億6 ,900万dが生産されており日本のおよそ100倍の規模に相当する。国別では中国が抜きん出て多く、生産量は2億1,200万dと世界の4分の1強、次いでインドの1億6,800万d、インドネシアが8,100万d、バングラデシュ4,800万d、ベトナム4,200万d、タイ3,300万トンと、日本は上位10カ国にまったく届かない。


コメ先物市場の生殺与奪を握る農水省
 生産量については作付面積や農業人口の違いもあるが、日本人の食生活が戦後大幅に変化した背景も大きい。一言で表せば「欧米化」で、パン食が広く日本に浸透したことで米食の割合が減り、1963年度(昭和38)を境に今に至るまで減少傾向が続いている。1人当りの年間コメ消費量は1962年度(同37)の118`cに対し2017年度(平成29)には54`cにまで減少している。

 このため必然的にコメ余りの状態が恒常化しており、1970年度(昭和45)には政府過剰米が720万dに達している。現在にすればほぼ年間生産量が丸ごと余るという状況に陥ったため、減反政策による生産調整が始められたという経緯がある。ただ、ここにきて貿易の自由化などで海外産の安いコメが日本に入って来るようになり、国産米の競争力を強化する観点から減反政策は2018年度(平成30)から廃止された。

変革を嫌うコメ農家、世界穀物は先物市場で値段が決まる
 減反廃止によりコメ農家は独自の判断でコメの作付けができるようにはなったものの、実際同年のコメの生産量は前述どおり778万dで、前年比0.5%減とまったく上がっていない。主な要因はコメ農家の高齢化による人手不足もあるが、それ以上に生産増による米価下落を避けたいという意識が影響しているという見方もできる。コメ作りにおいてこれまでやってきた護送船団方式からの脱却に抵抗を感じなかなか自発的に新しいスタイルを取り入れにくいという側面が大きいようだ。

例えば先物取引は米価下落への対処法として非常に有用な手段ではあるが、「主食を投機のの対象にするのか」という根強い反対意見が消えない。米国では小麦、トウモロコシ、大豆といった主要農産物にはそれぞれ先物市場が存在し、活発に取引されている。ここてで決まった値段は指標価格として、国際間においても取引の基準になっている。農産物だけでなく、金、原油などの商品米国の先物市場が指標価格として世界中に影響を及ぼしている。日本にも金や原油の先物市場はあるが、取引規模の違いで残念ながら影響力は限定的と言わざるを得ない。

 価格の決まる場所にはあらゆる関連情報が集まり、当該商品においては経済活動の主軸を握ることになる。最大の経済大国であるアメリカから多数の主力商品価格が発信されることは、ある意味当然ではあるが、これに真っ向から勝負を挑み覇権を奪取しようとしているのが、今の中国である。

米中経済戦争、コメ価格覇権を狙う中国の意地
 今回、中国のコメ先物は大連商品取引所(DCE)で上場されるが、実は2013年11月に鄭州商品取引所で同じくジャポニカ米を上場している。だが上場当初こそ活況を呈したが、出来高や建玉枚数が激減し、直近ではほとんど機能していないとされている。

 堂島取もジャポニカ米の先物市場を試験上場しているが、鄭州の商品設計は堂島取と異なっている。例えば標準品は品質基準の詳細は不明だが、「中国の品質基準に基づく2等合格品」で産地銘柄の指定はない。限月は隔月1年の6限月で取引単位は20d、値幅制限は「前日帳入値段の±4%」などとなっているが、鄭州のコメ先物をテコ入れせずに、一からDCEで立ち上げるところに中国の本気度が垣間見える。

 はっきり言えば鄭州の取引所はローカル取引所と位置付けられるもので、中国からすればそれこそ試険上場のような意識で試したものといっていいだろう。これに対しDCEは中国の代表的な先物取引所であり、トップは代々全国人民代表大会(全人代)のメンバーが就任している。全人代は日本で国会に相当する組織であり、つまりDCEは中国共産党の影響を色濃く反映している取引所ということになる。

 これまで中国の金融市場は、外国人投資家に対し門戸を閉ざしていた。外国資本の参入を頑なに拒んできた態度が、昨今の経済発展を受け風向きが変わってきている。

 今回DCEはジャポニカ米に先駆けて、大豆先物についてすでに今冬を目途に外国人投資家に開放することを発表している。すでにDCEの大豆は米国最大の先物取引所であるシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の出来高を超えているが、これを外国人投資家に開放し投機資金を集めたら、今後世界の大豆価格は中国の先物市場が主導権を握る可能性が高まってくる。

 こうした動きは当然共産党の方針を受けたもので、中国は米国に真っ向から価格覇権争いの経済戦争を仕掛けたということになる。ただそれと同時にアジア経済を牽引するという狙いもあり、それが今回ジャポニカ米の先物取引で意思表明を図ったと見ることもできるだろう。

コメ価格を中国lに奪われる危機、国難の事態が目前に
 一方の日本は、戦前まで行われていたコメ先物取引が1939年(昭和14)4月、米穀配給統制により全国に19カ所あった米穀取引所と21カ所の正米市場が発展的解消の名目で閉鎖され、戦後も再開されることはなく、ようやく試険上場に漕ぎ着けたのが2011年(平成23)8月、実に72年ぶりのことであった。

 以来8年、ずっと試験上場の状態が続いているが、それが8月7日に期限を迎える。上場する堂島取は本上場申請か試験上場の延長申請という二択を迫られる中、本上場申請の道を採った。通らなければ上場廃止、つまり一からやり直しとなる。

 本上場の認可基準は以下の2点、@十分な取引量が見込まれる、A生産・流通を円滑にするために必要かつ適当−を満たせばいいが、これは農水省が判断する。

 だがこの状態にあってはJA全中、族議員などと気を回している場合ではないだろう。中国は本気でアメリカと戦い、経済覇権を握ろうとしている。同時にアジアの経済を牛耳り、富の独占を目論んでいる。コメは日本では消費量が減っているが、主要穀物の中でも世界的な健康ブームに乗じた和食人気の高まりもあり、大きな可能性を持っている。日本のブランド米も続々誕生しており、海外での評価も高い。コメに関して潜在的な経済成長の糊代は、決して小さくはない。

 今、まさに国産米の未来が分水嶺に差し掛かっている。「米価下落の阻止」が農業政策の本丸であるならば、主食の価格決定権を中国に奪われたらもう終わりである。


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 編集発行人:村尾 和俊
(2019/7/16 2941) 掲載