第 257回

256回 258回
米良 周              
 1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

The Trading Places仮説
  
 「古典映画、商品ブームに解明の光を−」
 英紙ファイナンシャル・タイムス(FT、11日付)のコラム″ザ・ロング・ビュー“の見出しである。
 コラムに出てくる映画二作。
 @サフランスの Jean de Florette ジラルド・ディパデューは農場を相続、花造りを夢見たが、隣人たちのやっかみから秘密の泉からの取水を阻げられ、失意の中で亡くなる。
 A米国のコメディ巨編、同時代の“Trading Places”ダン・アイクロイドとエディ・マーフィがにせ情報を什掛けたあと、ビットに張り付く。マーフィは取引初心者にもかかわらず冷凍オレンジジュース先物でひと財産を作り、幸せに暮らしましたとさ。
 コラムの書き出しを整理してみたが、映画音痴の筆者には前者は全然知らないし、後者は衛星放送でぼんやり見たような記憶がある程度。
 「通常、投資家は商品の価格は大まかに経済流動に沿うと考える。商品の実勢価格とボンドの利回りはともに景気に敏感で、景気が拡大局痴では上昇し、金融引木締め下では下がる。だが、ポンドの利回りは低く、石油は予想だにしない超高値に達している」
 「ドル安もカギである。商品の価格はドル建てゆえに上がる。1ヵ月余り、石油が上がると、ほぼ一貫してユーロも対ドルで上昇してきた。 弱いドルと強い石油はリンクしていた。だが、ここユーロがドルに対して急落した局面でも石油は上がり続け、弱いドルだけでは商品の値上がりが説明できない」
 で、商品上昇についての議論は次の二つに絞られてきたとコラムの執筆者、ジョン・オーサーズ氏は書き進める。
 “The Jean de Florette”仮説供給が強く抑制されている。この説では商品がインフレを促進し、成長を抑止する1970年代の悲劇の再現となる。
 “The Jean de Florette”仮説新たな投機資金が商品先物市場に流入、市場をゆがめている。だが終わりよしとはなるまい。商品の新投資家はバブルがはじけ、すってんてんとなろう。
 コラムでは仮説を検証しているが“Trading Places”仮説について、その部分を引用してみる。
 「機関投資家、個人投資家を問わず、商品は分散投資の受け皿になるという研究に触発され、また”パフォーマンス追求型”もパフォーマンスのよさにつられて商品市場に流入している。ファンド・マネジャーは現物受渡しに関与せず、商品自体の詳細な研究能力も欠く。したがって、資金は受身型の先物市場を利用した指数ファンドに投じる。コンサルタントのフィリップ・バーレガー氏によると、こうした投資は3年で5倍増の2500億ドルに達する」
 「だが、先物市場は生産者が価格の変動に備えてヘッジする仕組みを意味する。商品リンクの投資手段はだから『リスク管理のツールというより投資手段』と化している。
 この結果、さらなる高値に向けて自己増殖していく」
◆     ◆     ◆     ◆
 「商品がインフレを促進し、成長を抑止する」1970年代の代表的商品は銀だった。
 「価格転落でシルバー・ライニング(逆境にあっての希望の光)差さず」
 FT(8日付)のもたつく銀市況に関する解説記事の見出しである。
 「銀市場はその輝きをやや失っている。3月17日の28年振りの高値1トロイオンス21.24ドルから5月7日の16.59ドルまで21.9%下がった。 金属コンサルティング会社GFMSは中期的にみてさらなる弱さが浮上する可能性があるとみている」
 記事はGFMSと銀の業界団体ザ・シルバー・インスティチュートが共同で編集した最新銀需給報告書「ワールド・シルバー・サーペイ2008」の8日の発表を受けたものだ。
 小社に報告書が届いたのは前号締め切り後の9日午後。
 1章の「要約と展望」部分を抜き出してみる。
 「銀相場はこの3月、華々しく20ドルレベルを突破したが、第1四半期の花火的な上昇は07年のしっかりした足取りに比べると見劣りする。07年の年間平均値13.38ドルは前年比16%の上昇で、2ケタ上昇の連続4年目に当る。銀の強い基調の主軸となったのは投資家の際立つ姿勢転換だった」
 「2000年まで銀市場は私的保有銀の大量放出が重しになっていた。1970年代、1980年代のそれぞれの銀投資のブーム&パーストの遺物ともいうべき重しは数年前に干上がった(売却は少なく購入が多い)。この変容はネット(差し引き正味の)投資需要が定着する04〜07年で完成する。06年からは銀のETF(上場投資信託)の登場も寄与する。この変容はいうまでもなく、投資家の行動によるもので、銀に限らず、広範な商品に及んでいる」
 第1章の書き出し部分だが、以下、ポイントを整理してみる。
 ●需要サイドで目立つのは産業用。01年の低水準に比べると36%(3700トン)増。しかも、この部分は短期的には価格変動による増減がほとんどない。産業用需要の増加期間にジュエリー、銀器、そして特に写真感光剤需要が漸減しているだけに、投資需要ほど派手に取り上げられないが、銀相場の動向のカギとなっている(写真用需要は01年から07年まで2600トン減っている)。
 ●新産銀は04〜07年に着実に増え、03年から約2200トンの増加。07年だけで721トン増えている。ただ、07年の増産圧力は鉱山のヘッジ売りの買い戻し(779トン)と政府売却の減少で軽減された。投資需要が銀相場を高値に押し上げた背景である。
 ●こうした動きが続くかどうかは疑問だ。供給サイドで08年も新産銀の増加は確実視されている。回収銀と政府売却量はあまり変化がないとすれば、増産分を需要が吸収しなければならないいだが、需要の吸収カは小さそうだ。まず、15ドルを超える価格は需要に多少なりともインパクトを与える。一方、世界のGDPと産業部門の成長は低下し、産業用需要にマイナスの効果をもたらす(産業用需要は07年でみると全需要の半ば以上)。
 報告書第1章の結論部門を訳出してみる。
 「他の需要部門、基本的に投資需要と多分ヘッジ売りの買い戻しは増える可能性がある(もし価格下落が避けられたら〉。だが一方でヘッジの買い戻し水準は低くなることも考えられる。まず07年末で鉱山のヘッジ売りは1824トン、したがって大規模な買い戻しは予想しにくい。さらに銀専業鉱山を除き、歴史的な高値にあるだけに利益確保にかられやすい。こうしてみてくると、08年は投資需要にかかるところが大きい」
 「これまでのところ投資家は支え役。第1四半期で例えばETFの保有は約1000トン分増えた。少なくとも08年に関しては投資需要は前向きが予想される。金が強基調を保ち、米ドルは弱く、インフレ懸念は高まり、商品セクターへの着実な資金流入が続くとみられるためだ。こうした情況下で08年が年間でさらに値上がりしないとしたら、それはおどろくに値する」
 価格レンジの明示はないが、GFMSのフィリップ・クラップウィジク会長は「08年は平均銀価格は1トロイオンス17ドル、だがこの10年の終わりにかけて10ドル相場に逆戻りする」と述べている(FT、8日付前掲記事中。
 商品(価格)ブームとはいえ、需給に沿った強弱選別の時代を迎えつつあるようにみえる。
 (商品の畑以外の)プロたちのうたげも終わりに近いのではないか。
  
 世界の銀需給 (単位:1000トロイオンス)
 
 
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
供 給
 
 
 
 
 
 
 
 

 
新産金
542.2
556.9
591.0
606.2
593.6
600.6
621.1
643.8
647.4
670.6
ネット政府売却
33.5
97.2
60.3
62.6
60.3
68.4
60.2
67.5
78.2
42.3
回収銀
193.9
181.6
180.7
182.7
187.5
184.0
183.7
186.0
188.0
181.6
生産者・ヘッジ
6.5
-
-
18.9
-
-
9.6
27.6
-
-
推定投資家売却
48.2
44.8
87.2
-
10.8
-
-
-
-
-
供給計
824.3
880.4
919.1
870.4
852.2
972.9
874.6
925.0
913.7
894.5
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
需 要
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
加工
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
産業用途
316.3
339.0
374.3
335.2
339.2
349.8
367.3
405.3
424.8
485.3
写真フイルム
225.4
227.9
218.3
213.1
204.3
192.9
178.8
160.3
144.0
128.3
シュエリー
140.6
159.8
170.6
174.3
168.9
179.2
174.9
173.8
166.3
163.5
銀器
114.2
108.6
96.4
106.1
83.5
83.9
67.3
67.8
61.2
58.8
銀貨・メダル
27.8
29.1
32.1
30.5
31.6
35.7
42.4
40.0
39.8
37.8
加工計
824.3
864.4
891.7
859.2
827.4
841.5
830.8
847.4
836.0
843.0
生産者買戻し
-
16.0
27.4
-
24.8
20.9
-
-
6.8
25.0
推定投資
-
-
-
11.2
-
10.5
44.0
77.6
70.8
25.8
供給計
824.3
880.4
919.1
870.4
852.2
872.9
874.5
925.0
913.7
894.5
銀価格 ロンドン
1トロイオンス・ドル
5,544
5,220
4.951
4,370
4.599
4,879
6,658
7,312
11,549
13.384

 (週刊 先物ジャーナル 08年5月19日 第939号 掲載)