第 254回

253回 255回
米良 周              
 1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

金、08年は850〜1100ドル レンジ
  
 「RBC・キャピタル・マーケットのステファン・ウォーカー氏は『金は今年後半、1トロイオンス1000ドル相場に再挑戦するまで底堅めの期間を要しよう。RBCは投資家に金と産金株はFEDが米金利引下げをストップし、金が季節的に静かな値動きを呈する夏場前に利食いを先行するすべきだと勧告する』と述べている」(英紙ファイナンシャル・タイムス=FT=10日付商品市況欄)
 英国のメタルに関する調査・コンサルティング会社、GFMSは9日、金の最新年次報告書「ゴールド・サーペイ・2008」を公表した。GFMSの金需給報告書は金の世界では最も信頼性の高いデータとされている。報告書の要約と価格展望の冒頭部門を抜き出してみる。
 「金は今年海図なき領域に踏み込んだ。少なくとも名目値で1980年高値を突破し、1トロイオンス1000ドル示現は次なる新局面へ向けての可能性を広げた。1200ドル、1500ドル果ては2000ドル説も珍しくなく、人によってはそれは絵空事ではないとしている」
 「かなりの高値余地があることを頭から否定するわけではないが、GFMSは警戒の声を発したい。我々の見解では現下の市場には“根拠なき熱狂(イレジョナル・エクジュービランス)”が働いており、さかのぼること1999年の陰(ネガティブ)の人気の極同様、陽(ポジティブ)の人気の極にある」
 GFMSが警戒信号を発する理由は「900ドル超の相場は投資家の関心の高まりにその大部分を負っている」からだ。
 「生産コストの上昇(07年第4四半期の平均トータルコストは推定で518ドル)とジュエリー需要の強さ〈07年の第3四半期までははっきりと読み取れる)は均衡価格、例えば600ドルは支える。だが、その水準を300〜400ドルも超える水準ではそうした見方は通じない。例えば1000ドル相場の下にあってはジュエリー加工需要が08年年間で2000トンを下回ってもおどろくことはない。この水準では推定産金量をおよそ500トン下回る。今年は投資需要がその穴を埋めるほどに増えなければ高値は支えられない。ましてやさらなる高値においておや」GFMSは需給ファンダメンタルズのサイドから警戒信号を発しているが高値挑戦の余地なし、と断じているわけではない。
 「十中八九まで少なくとも今年は投資需要は新高値に挑むだろう。現在進行中のクレジット市場危機とその重要な副次効果である米国の利下げと米ドルの弱さは投資需要を押し上げた。この要因はとどまる。少なくとも向こう6ヵ月間、そしておそらく09年にまで、投資需要押し上げ要因は残ろう。それ以降は下落リスクは拡大する。さらに大きく投資ポジションが積み上がるだけでなく、その間ジュエリー加工需要の浸食が進むからだ。”ゲームの終わり(エンド・ゲーム)“の到来は理論上かなり明白だ、というのが我々の見解だが、それ以前に金がどこまで上がるかはますます答えが出しにくい」
 RBCのひとまず戻り売り、という勧告は、GFMSの警戒感を抱きながらも年内再度高値挑戦というシナリオを符合するようである。
◆     ◆     ◆     ◆
 GFMSの金価格の章から展望部分の要約を抜き出してみる。
 「相場は再度上昇する前に800ドル台の高値部分で底入れしよう。金投資を好む勢力はなお残り、マネーの側面を重くみる見方も根強いからだ。こうしたフローシィ(あわ立つ)市場で高値を予想するのは報われそうにない仕事だが、現在の”ノーンズ(既知のことがら))が1100ドルに相場を押し上げると読むことができる。1200ドル台から上を見込むには多分若干の“アンノーンズ(未知のことがら)”の出現を要しよう」
 「タイミングに関しては控え目なピーク(天井)は今年中にみられようが、さらにドラマティックな展開は09年にまたがるもっと長い視野を要するだろう。ピークを超えたら安値が目立つ局面を迎えよう。ジュエリー需要の伸びが投資家の売却に及はないことが主因となろうが、鉱山による増産の可能性が具体化し市場人気に影響することも考えられる」
 08年の金相場のレンジについてGFMSは明示していないが、870〜1100ドルを想定していると読んだ。GFMSの報告書執筆時点以降の″ノーンズ”を拾ってみる。
 ●IMFの金売却、理事会で合意(報告書ではIMFの売却は09年のストーリー、としている)。
 規模と時期は”アンノーンズ”だが、想定売却価格を850ドルとしている点、この程度のインパクトも想定しているのではないだろうか。
 ●原油最高値更新。14日にロシアの石油生産が07年で天井を打ったというニュースがピークオイル説に重みを加えた(ロシアの独立系石油最大手、ルークオイルのレオニッド・フィーデン副社長が14日、FT紙に「07年のロシアの日量1000万バレルは我が人生で見込める最大の生産量」と述べた)。
 ブラジル、バイオ燃料と並んで増産余地ありとみられていたロシア原油のピークアウトとあれば、原油高は続き、インフレ懸念を世界に拡大する。
 ●コメの史上最高値更新続く。15日、インドネシアがコメの輸出を停止、ベトナム、エジプト、中国、カンボジア、インドなどに次ぐ穀物輸出制限措置。食料品インフレが途上国中心に伝播している。ここでもインフレの芽が吹き出している。
 GFMSの報告書発表以来の“ノーンズ”をみると、金1000ドル相場再現の土壌は整いつつあるようにみえる。
 「850ドル〜1100ドル」報告書読了後の私の08年金相場予想レンジである。
  
 世界の金需給 (単位:トン)
 
 
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
供 給
 
 
 
 
 
 
 
 

 
新産金
2,574
2,602
2,618
2,645
2,618
2,621
2,493
2,548
2,486
2,476
公的金売却
363
477
479
520
547
620
479
663
370
481
スクラップ回収
1,108
620
619
749
872
985
878
897
1,126
956
生産者ヘッジ(正味)
97
506
推定投資家売却
300
12
供給計
4,143
4,204
4,017
3,914
4,037
4,225
3,862
4,108
3,982
3,912
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
需 要
 
 
 
 
 
 
 
 

 
加工
 
 
 
 
 
 
 
 

 
ジュエリー
3,169
3,139
3,204
3,008
2,660
2,482
20613
2,708
2,284
2,401
その他
567
592
557
474
481
515
555
579
648
671
加工計
3,737
3,732
3,761
3,482
3,141
2,997
3,168
3,287
2,932
3,072
地金退蔵
174
269
242
261
264
180
257
264
235
236
ヘッジ買戻し(正味)
15
151
412
289
438
92
410
446
推定投資
233
205
20
220
760
465
404
158
需要計
4,143
4,205
4,17
3,914
4,037
4,225
3,862
4,108
3,982
3,912
金価格
ロンドン、午後の値決め
1トロイオンス当たりドル
294.09
278.57
279.11
271.04
309.68
363.32
409.17
444.45
603.77
695.39

 (週刊 先物ジャーナル 08年4月21日 第935号 掲載)