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若者よ、リスクを冒せ
市場経済研究所代表 鍋島 高明
博文館といえば今日では、「日記の博文館か」くらいにしかみられていないが、かつては日本を代表する大手出版元として業界を睥睨していた。その博文館が「日用百科全書」全30巻を出版するのは明治31年(1898)で、110年前のことだ。
「日用百科全書」は、冠婚葬祭、衣食住、育児、看病、趣味、商業、農業、……人生万般に亘る生活の知恵を網羅、「これによって春風の如く、秋月の如く、清潔にして節倹、健全にして和楽なる家庭を得ば、帝国の品位高きこと一等なるべし」と謳っている。日本国の品位を高めるためにも百科全書を読め、と社主大橋新太郎は訴える。
「日用百科全書」の第26巻が「致富要訣」で今風に言えば、「お金の増やし方」といったところか。当然、投機についても詳述している。投機の功罪の論じたあと、商売と投機の違いを挙げている。
一、商売は取引の範囲が一定し、主に得意先に限るが、投機には得意先はなく、取引の区域も一定しない。
一、商売は薄利でも継続を望み、投機は一攫千金の機を狙う。
一、商売に必要なものは勤労で、投機に必要なものは智略。
一、商売は腕で生活し、投機は頭で生活する。
一、商売は確実、安定、投機は浮沈、消長を免れず。
百科全書には国内外の富豪伝を収めてある。ヴァンダービルト、ロスチャイルド、モルガン、クルップなど外国人のほか、紀文、銭五、天下の糸平・田中平八、岩崎弥太郎、大倉喜八郎、安田善次郎など財閥の始祖が並ぶ。彼らに共通するのは、少壮時に投機で一攫千金を目論み、礎を築いたあとは安定、確実を旨とした。投機の権化のような糸平や雨敬でさえ、臨終の床では投機を戒める言葉を残している。
この本の巻頭には一枚の版画が収められているが、紀文が紀州のみかんを満載して、今にも怒涛の大海に漕ぎ出そうかという勇壮な画で、編者は若者よ、リスクを冒せ、と呼び掛けているようである。
だが、投機家は五つの要件を備えていなければならない、とも説く。機を見るに明なる、資本を有する勇気に富む、思想の緻密なる、挙動の敏捷なる、これらの要素を兼ね備えた人々が格関する場、それはまさに「投機道」と呼ぶにふさわしい。 |