第 251回

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米良 周              
 1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

カネ持ち日本人こそ商品先物市場の支え

 「さえない、ぱっとしない」といった報道の洪水にもかかわらず、日本の政府が一人当たりGDPの近年の成長に着目すれば、消費者は喜んでもっと消費する、言い換えれば日本のGDPの足取りはもっと強いものになるだろう。
 英誌エコノミスト(3月15日号)の「大きくゆがんだ全体像」と題する「経済の焦点」欄の結語である。
 記事にある異なった「レンズを通してみる」という図表(略)をみていただきたい。03〜07年のGNP成長率でみると、日本はG7の中でも4位だが、一人当たりGDPでは米国(まだ、サブプライムローンによる信用収縮がさほど深刻でない時期)をしのぎ、英国に次ぐ2位にある。
 記事では「オーストラリアの政治家が先進国の中で過去5年の平均成長率が3.3%と最も高いと誇るが、人口増加率もまた高く、一人当たりGUPでは日本に及ばない」という記述がある。左様、日本の一人当たりGDPが高いのは人口停滞の裏返しでもある。
 だが、一人当たりGDPが高い点に着目すれば日本は経済にゆとりがあり、いろんなことを試してみることができることにも通じる。
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 別項で筆者が1年半がかりで書いた商品先物の手引書の序文を載せた。先物ジャーナルを私物化するのか、という叱正もあろう。
 が、序文を書き上げたのが、06年夏。「怖い取引を楽しい取引に」という方向は当時に比べ格段に定まってきたと考える。怖さの二つの面、レバレッジの高さは自らレバレッジを低めていけばいいのだし、もうひとつの怖さ「むりくり商品先物をやらされる」も後退してきた。
 商品取引員への行政処分はなかなか途切れないのは事実だ。だが、これはこと商品先物に限らず、銀行、証券、保険と広義の金融業界全般に共通する現象である。
 で、エコノミスト誌の記事に戻る。一人当たりGDPの高い日本こそ、ゆとりを持って商品先物相場を楽しむ層が厚いことを示している。「怖い取引」という長年にわたって醸成されてきた負のイメージをぬぐい去れば、自己責任に基づく潜在的参加者の開拓余地は大きいものがあると断じてもいい。
 一年半前に書いた序文が現実の方向と重なる時期は近い。紙面を私物化し、自著のPRに紙面を割いたゆえんだ。
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 商品相場は怖い。それは海の向こうからやってきた。
 3月第3週の国際商品急落はそれこそ需給原則の大枠を外れた動きだった。個別の需給を点検し直してもさっぱりわからない、が商品先物取引参加者の大方の感想ではあるまいか。
世界不況局面下の商品単価
高値から安値(% ドル建て価格変化率)
 
73/12
75/06
80/02
80/09
81/08
82/09
90/11
93/06
00/09
02/01
原油
117.2
-10.5
-1.8
-47.9
-37.0
金属
-5.4
-25.6
-14.9
-34.7
-15.4
食品
-13.0
11.0
-8.1
-7.7
-4.8
飲料
-17.36
-20.5
-3.2
-24.8
-8.3
農作物
-19.2
-12.9
-2.1
14.0
-13.5
 英紙ファイナンシャル・タイムズ(FT、24日付)には「コモディティの値段、ヘッジファンドの建玉整理で下がる」という見出しの記事が出ている。
 「コモディティの値段が広範囲にわたって下がっている。ヘッジファンドが今年最も人気の高いアセット・クラス(資産の分類)に投じていた資産を引き揚げたためである。このことは最近の記録的高値は投機資金の流入によるものだったことを示唆している」
 「コモディティファンドのデレバレッジング(借り入れを減らして投機を手じまう)は金融市場の動揺の波及を懸念する中央銀行マンにとってよいニュースとなったろう」
 記事の出だしである。
 ポイントを抜き出してみる。
 ●ドレスナー銀行のデービット・ホームズ氏は「ヘッジファンドは(買い)玉整理を急いだとし、「明らかにヘッジファンドは商品は値上がりするとをにらんでいた。だが、いまや玉を減らし、利益を手中に確保しようとしている」と述べている。
 ●FEDは長いこと石油と他の商品の値上がりに戸惑っていた。「中国とインドの需要は確かに強いかもしれない。が、それはトレーダーならだれでも知っている。それに世界的な成長見通しは年はじめから混沌としているではないか」と。
 ●IMFもFEDと見解を同じにする。20日に公表したリポートでは「商品の値段と成長鈍化傾向は連動していない」としている。IMFは「ドルの減価と短期実質金利の低下が多くのチォネルを通じて商品価格を押し上げている。商品をオルタナティブ・アセット(代替資産)ととらえる動きが強まっている」と分析、結局、そうした金融要因が08年に入って以降の石油の値上がりと他の商品の上昇を招いているとみている。
 ●FED当局は足早の利下げがドルの力をそぎ商品価格を押し上げる─ドル建て価格の押し上げ機能とイ
ンフレ・ドル安へのへッジの商品買い─ことを認識している。直近の利下げで1%ではなく0.75%にとどめたのも、ドル安・商品高の構図を避けようとしたこともある。とりあえずはその意図は成功したようにみえる。
 ●だが、IMFは商品の大幅下落期待には水を差す。商品はなお需給タイトであり、中国、インドあるいはブラジルの需要は強く、実質的な世界景気の後退がないとすれば下落余地は限られると見ている。
 IMFは「商品の値上がりと世界景気の下降間の関連度のなさは商品への需要増加への寄与度の大きい途上国はこれまでのところ金融危機の影響度が小さいことを物語っている」とする。
 FTの記事を前提に考えれば、商品相場の怖さはヘッジファンドなどプロの投資家の需給の枠外投機に振り回される度合いが高まっているところにある。で、再三再四記してきたことをまたぞろ書く。そも、プロとはなんぞや。百歩ゆづって、プロだけで市場は存在するや。
 FTの記事に添えられた図表、「世界景気の下降局面の商品価格」を見る。原油、メタルで見る限り、この表に08年春の商品下落のデータが加わることはなさそうだ。
 商品価格は3月第4過の惨落から抜け出している。商品と米国景気のデカップリングという軌道に復しているようにみえる。
 
危険な取引を楽しい取引に
 危険性が高いといわれる商品先物に自発的に参加し、取引を楽しむにはどうしたらいいだろうか。本書はこんな考え方から執筆しました。
 危険な取引には2つの面が考えられます。ひとつは、先物は小さな資金で大きな取引ができる証拠金取引という仕組みの中にあります。価格が予想に反すると、損失を見切らない限り、損失の額は雪だるまのように膨らんでいくからです。
 一般の人が商品先物取引に参加するには、商品取引員(商品先物取引会社)を介さなければなりません。商品取引員の経営は取引の仲介手数料に依存します。できるだけ多くの参加者(顧客)、多くの取引高を求めます。手数料収入を増やそうという意図そのものにはなんら間違はないはずです。
 だが、顧客を勧誘する過程で取引が本来持った危険性について説明が不足し、かつ取引の仕組みが理解できない人々が参加したらどうなるでしょうか。
 「いつの間にかこんなに損が膨らんだ」「いやお客さんも納得したはず」─もめ事(紛議)の種蒔きに通じます。紛議を通じて怖い取引というイメージを増幅させていきます。怖い取引とされるもうひとつの面です。
 取引の持つ危険性(取引の仕組み)を理解できない人は勧誘しない、参加を遠慮していただくというように、商品取引員の営業姿勢はここ一両年大きく変化してきました。怖い取引とされる一面が薄れてきました。
 証拠金取引の持つ危険性も証拠金を厚目に積む、取引量に枠を設ける、などの手段で低めることができます。余裕資金の範囲内で自主的に参加すれば、取引の本来持つ怖さ(危険性)もまた薄れます。
 商品先物取引の対象商品の多くは金、銀、プラチナ(白金)、原油、カソリン、灯油、ゴム、大豆、トウモロコシ、コーヒー、粗糖といった国際商品です。商品先物取引に参加することによって、その変動要因である国際政治、経済情勢への読解力が高まり、資産運用での視野が広がります。
 商品相場への挑戦は足元の需給分析を出発点として、先行きの需給と人気に変化を推理していくことに通じます。良質な推理小説を読む、あるいは書くような楽しみが味わえるはずです。
 取引の仕組みに通じた商品先物取引の人口の増加こそが商品先物市場の持つヘッジ(危険回避)、価格発見という機能の充実につながり、経済活動の円滑化、活性化につながる王道であると考えます。

 (週刊 先物ジャーナル 08年3月31日 第932号 掲載)