第 250回

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米良 周              
 1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

商品は結局需給論理で動く コメの高値が実証

 銀行の差し押さえ率が全米一であるここストックトンの町では、このひと月だけでこの同じ札(差し押さえ物件)が30軒の家につけられた。サブプライムローンの支払い延滞で次々に空き家が増えた街は、今ではしんと静まりかえりすっかりゴーストタウンと化している。
「ルポ貧困大国アメリカ」(堤末果著、岩波新書のプロローグの一部だ。
 3年前のあの日、突然マリオの家を訪れた若い男。金融機関から来たというあの男は、自分は弱者の味方だと言ったはずだ。マリオのような低所得層の移民にも、家を持つ夢をかなえる権利があるはずだと。そしてその後に続いた言葉が、マリオの心をつかんだのだ。
 「あんた方が国境を越えてやってきたアメリカという国は、不可能を可能にする場所なんですよ」
 2年前に自己破産しているマリオは若い男の「住宅価格は上がり続けますから」の言葉に押されてのサブプライムローンに飛び付き、破綻に至るストーリー。
 経済的弱者を食い物にした「貧困ビジネス」の一つだと著者は断じる。
 米国のサブプライムローン問題に端を発した金融市場の混乱は強力な信用収縮現象を招き、その余波は3月第4週の国際商品総売りにつながっている。
 マリオにサブプライムローンを組ませた若い銀行マンもおそらくは人員整理の対象になつているはずだ。
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 「我々はリスクに関して完全なモデルはもてないだう」
 英紙ファイナンシャルタイムス(FT、17日付〉に載ったアラン・グリーンスパン前FED議長の寄稿文の見出しである。
 「現下の米国の金融危機は振り返ってみれば第2次世界大戦後最も厳しいものとなろう。結局は住宅価格が安定し、苦境にある抵当証券市場を支えるまでの苦境は続くだろう」
 寄稿文の書き出しである。グリーンスパン予言はペアスターンの実質破綻、有力ヘッジファンドの連鎖的破綻という3月第3週の金融危機で現実化していく。
 だが、住宅価格は上がり続けるという米国の住宅神話作りにグリーンスパン氏は関与していなかっただろうか。こんな疑問は世に共通する。
 「アラン・グリーンスパンの論説を何度も読んだが、彼が説く金融の啓示は大部分がその監視下にあった米FEDの行動・非行動に由来する事実に関しての謝罪は見出せない」、「17日の社説対抗面の論文はロバート・マクナマラがベトナム戦争に関して語るところと同じだと思った」
 FT、18日−19日付の投稿欄にはグリーンスパン批判文がどっさり載っている。
 投書の中には「危機醸成はだれにでもわかる」と題するフロリダ在住氏の文章がある。
 「米国に帰った04年、家を購入しようと考えた。だが、その値上がりの速さから借家にした。住宅価
格は建設コストの10倍、年収の10〜20倍の借金ができる。明らかに住宅需要は人為的に刺激されていた」
 同じカリフォルニアの住民前出のマリオさんがサブプライムローンで住宅を購入したのもまさに04年。需給、コストを考慮すべし、投稿文はこと住宅に関してだが、幅広い商品に共通する教訓であろう。
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 3月第4週の二次にわたる商品売りは08年に入って上昇率の高かった農産物を直撃した。需給タイトという条件が激変したわけでもあるまい。機関投資家によるアセット・アロケーションに組み込まれた部分が剥落したことによると思う。
 小麦、トウモロコシと並ぶ穀物だが、プロという名の機関投資家の関与度が小さい米(コメ)。そのコメ価格は34年来の高値を付けている(FT、19日付)。
 「コメ相場は18日、フィリピンがトン当たり平均708ドルで入札した結果、34年振りの高値に達した。入札値は1月末値に比べ50%高い。インド、ベトナムといった大手生産国が今月そろって輸出制限策を打ち出し、タイの輸出も先細りとあって供給窮迫の度合いが強まっている」
 「コメの値上がりはアジアのインフレを加速、社会不安を招きかねない。世界最大級の輸入国、フィリピンは特にそのリスクが高い。欧州のトレーダーは国際的な指標である高品質タイ米が2月後半のトン515ドルから約640ドルに上がっていると指摘する。供給低下と強い需要で過去3ヵ月で72%の上昇」
 アジアはいまコメ危機下にある。
 筆者は日に500ミリリットルのビールを2本空ける。近くのコンビニで仕入れるが、今週1本270円が284円に値上がりしていることに気がついた。
 ビールを飲みながら深夜テレビを見ないで、さっさと寝なさいという啓示なのだろうか。
 が、しのび寄る食料インフレを日々の飲食を通じて実感する今日このごろである。
 原料高の製品価格への転嫁がスムースなら、金融混乱に巻き込まれた形の食品原料下落のあらしは収まる。
 商品は需給に始まって需給に終わるのだから─。

 週刊 先物ジャーナル 08年3月24日 第931号 掲載)