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ヒーロー伝説を作れ
市場経済研究所代表 鍋島 高明
 最近、商品先物会社からの勧誘電話がかかってこなくなった。外務員がピーク時の半分に減って営業活動も思うにまかせないのであろう、見込みの薄い客は後回しにしているに違いないと一人合点した。が、よく考えてみると、電話がこないのは当然である。なぜなら、当方には委託者としての適合性の原則が当てはまらないからである。70歳を超え、年金を受給する身である。こんな人間を勧誘すれば、各社の自主規制マニュアルに触れ、管理部門からコンプライアンス精神の欠如を厳しく追求されること受け合いである。
 最近、定年退職した知人が商品投資家を志願しているという話を聞いた。アメリカの著名な投資家ジム・ロジャーズ氏が「商品の時代」を主唱しているのにチョウチンをつけたわけでもあるまいが、向こう数年間は商品相場が右肩上がりのコースを辿るとこの投資家候補はにらんでいるらしい。
 石油が100ドル台を突破、金が1000ドル台を目前に迫り、農産品相場も大きく上昇、まさに「商品の時代」。商品先物業界は空前の追い風を背に受けていながら、出来高は前年実績割れに沈んでいる。
 まことに奇怪な現象ではあるが、翻って考えると、商品相場は闇雲に電話勧誘してやらせるものではない。やりたい人がやる市場である。株にはPER(株価収益率)など株価診断の目安はいろいろあっても、はっきりしたコストはない。それに引き換え、商品は生産費が基準になって、これに需給や人気が加わって動くのだから、売り・買いの判断が立てやすい。現物投資をやるつもりならケガは少ない。
 かつて、米相場が華やかな時代、呑み屋は横行したが、電話で強引な勧誘などしなくても、相場ファンは自然と鎧橋周辺に集まってきた。それは、相場で一攫千金の夢を実現した「ヒーロー伝説」が人々の投機心を揺さぶった結果である。人は大なり、小なり冒険心を持っている。「貯蓄より投資へ」という国策ともいうべき価値基準の転換も進んでいる。株はヤパイという懸念も広がっている。まさに商品の出番である。
 相場ヒーロー伝説が広告塔の役割を果たしてくれれば、一波が万波を呼び、商品相場に賭けてみようという野心家が名乗りを上げてくるに違いない。差し詰め、商品相場で100億円儲けたと広言しているS商事のS会長あたりの実録を広く世に知らせる工夫が必安ではないだろうか。口コミでもいい。一つのサクセス・ストーリーが万人の冒険心に火をつけることになるだろう。
(週刊 先物ジャーナル 08年3月10日 929号 掲載)