第 248回

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米良 周              
 1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

狂乱物価再びなのか
  
 「狂乱物価」時代再び
 週刊朝日(3月14日号)にはこんな見出しの特集記事が出ている。
 石油ショックから30年あまり、トイレットペーパーや砂糖などを求めて人々が右往左往した光景はよくご存知だろう。その「狂乱物価」の悪夢が再びよみがえりかねないようだ。穀物や原油の価格高騰に端を発し、日用品が軒並み値上がりしている。いま「買いだめ」しておきたいものは?
 特集の前文だ。これから値上がりするもの全リストが載っているから、そのうちから買いだめを、ということなのだろうか。
 30年前の“狂乱物価”時の記憶をたどってみる。
 ▽狂乱物価の犯人探しの果て、商社の売り惜しみが一部で槍玉に上がった。例えばトイレットペーパーでいえば、モノはあったが通常の何倍の買い貯めで小売店頭での品切れが生じ、それがまた買い貯めをせかせた。畏友鍋島高明氏が「ちり紙洪水警戒警報」なる一文を物にし、古紙回収業者の数が増えているから、いずれちり紙はあふれ出すよと買い貯めの愚を説いたと記憶している。
 商社も結局は濡れ衣をきせられた。砂糖を大量買いした知人はその処分に苦労していた。
 砂糖といえば超高値で豪州糖を長期契約し、その後の暴落で商社は系列砂糖会社ともども大痛手を負って
いる。
 「なにがプロだ」と思ったものだ。
 ▽価格はシグナルである。そのシグナルが働くためには投機が欠かせない。高値はやがて需要減退・供給増を通し安値を招きよせる。世の投機悪玉論にこんな論旨での投機弁護特集のデスクを命じられたことも覚えている。
◇     ◇     ◇     ◇
 OPEC(石油輸出機構)は5日、プッシュ米大統領の増産要請を拒否、生産枠を据え置くことを決めた。OPEC増産せずと軌を一にして米国原油在庫減のデータが発表になり、原油は1バレル4.50ドル高の104.52ドル(WTl)と実質最高値を更新した。
 OPECは声明文で「供給は十分。現在の商業在庫は5年平均値は上回っている」とし、現在の価格環境は市場のファンダメンタルズを反映していない点を指摘している。
 ブッシュ大統領はOPECの決定を受け「だれにとっても明らかなことは需要が供給を上回り、それが価格を押し上げていることだ。米国の勤労世帯の貯蓄を困難にし、農家の冨を損ない、中小企業の成長を阻害する」と反論している。
 市場の価格シグナルを直視せよ、ということだろう。
 一方、OPEC議長のチャキビ・ケーリル氏は最近の高騰は米ドルの弱さに関連した金融関連投機家のせいであるとし「石油市場に生じている現象(高値)は米国の経済のカジ取りのミスに起因する」と指摘している(英紙ファイナンシャル・タイムス、6日付「OPEC、ブッシュ要請を拒否」と題する記事中のコメン)
 いわば投機の行き過ぎ論である。
◇     ◇     ◇     ◇
 さて、原油高騰の責めはどこにあるのか。
 まず、値動きそのものはOPEC議長の見方に沿っている。
 3日、米国の大投資家、ウォーレン・パフェット氏はCNBCで「米国はどんな常識にかなった定義によろうが、リセション(景気後退)下にある」と述べ、「米ドルはさらなる下落の途上にある」とドル下落説を再び強調した。
 賢者パフェットの見立てを聞いた市場では金、原油、農産物が軒並み買われた。
 米景気後退なら企業収益は低下し株式は買えないし、不動産にも寄り付けない。米ドル安と景気テコ入れの金融緩和でインフレ懸念が広がる、としたら債券も避けるにしくはなし。インフレヘッジにもなり、需給ファンダメンタルズも良好、しかも08年に入って値上がりパフォーマンスも上々な商品こそ狙い目、という人気が走った結果だ。
 市場は人為的操作を目的としない限り、出入りは自由である。プッシュさんの価格シグナルを重視せよという論調に一理も二理もある。
 だが、30年前と異なり、市場では現物商品と金融商品の垣根がなくなっている。金融商品関連投機家が金融商品の世界の論理で過度に参入してくれば、形のうえでは玉締め状態を呈することになる。
 小さな市場の例でみよう。マレーシアのバーム原油先物市場ではヘッジファンドの買いが主役で記録的な高値となっている。
 インド、中国の菜種が寒波で減産、代替植物油バームの需要が増えている。最大のバーム原油生産国インドネシアは山火事でバーム農園の生産が落ち、輸出税の引き上げで国内供給を確保しようとしている。
 こうした需給実態をみればファンドが参入するのも道理がある。
 だが、実需給の枠組みを離れた仮需要(投機)がそこどけとばかり入れば、輸出入による需給のコントロール機能も一時阻害される。
 OPECの言い分もわかる。
 現物商品には現実の需給から離れた玉(この場合、金融商品下落のへッジ買い)には歯止めがあってしかるべきだと思う。

 (週刊 先物ジャーナル 08年3月10日 第929号 掲載)