第 246回

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米良 周              
 1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

次なる危機は食料品

 「クレジット(信用)と石油を忘れよ、次の危機は食料品」
英紙ファイナンシャル・タイムス(FT、15日付)のコラム欄「インサイト」の見出しである。
 「私はマーケットのなぞを解くにはモノライン〈金融保証会社)の中味を吟味することだと思っていた。もはやそうではない。数日前、ゴールドマン・サックスが欧州の顧客と世界の金融システムについて討論する場で思いを改めた」
 「その分析で強く打たれたのは、銀行の苦難の連鎖はさておき、商品の世界の一角で生じつつある混乱に関するものだった」
 「石油が高いことはさして気にすることはない。この間題はすでに衆知のことで、鉱産物とともによく論
じられている。いまゴールドマン・サックスが最も関心を寄せているのは農産物の相場動向。商品リサーチ部門のヘッドであるジェフ・キューリー氏は『我々は向こう1年から1年半、多くの商品部門で危機モードに入ると考えている。で、農産物がその中核となろう』と述べている」
 「FTの読者にはこうした見解を奇異に感じる向きがいるかもしれない。結局のところ西側世界の住民にとってガソリン代の方が小麦やトウモロコシの値段より悩みの種であることが普通だろう。西側の投資家が。“商品危機“で想起するのは通常1970年代の石油危機」
 「キューリー氏にいわせると、こうした西側の考え方は物事の本質からかけ離れている。1970年代に立ち返ってみると石油危機に比べはるかに多くの人々が飢えに苦しんだ、と説く。飽食の西側社会では理解しにくいだろうが、今日でも途上国では食料品の値上がりが政治的に強い打撃を与えている」
 コラムでは「WFPの見方によると世界人口の3分の1を占める国々で食料品価格規制、輸出禁止などの措置をとっている」とし、WFPの役員が筆者に飢えたアフリカの人々に日々配給する食料品をはかる赤いプラスチックのカップを示し、WFPの予算では値上がりに追い付かず、いまではカップの3分の2しか配れないと説明している、と記している。
 「悲しいことに、我々はサブプライム以上に大豆(の値上がり)が強い打撃を与える世界に生きている」とコラムは結んでいる。
 筆者のジリアン・テット氏は、ずばり切り込むタッチでファンが多いといわれる。
 ともあれ「石油が高いことを気にすることなかれ」というテット氏の論理を採用すれば、プラチナ、金の高値は世界人口の多くにとっては他人事(嫁入り仕度=金銀ジユェリー=で金高騰はインド庶民のフトコロを直撃するが)、ともいえよう。
◇     ◇     ◇     ◇
 毎日の生活のリズムの中で、くつろぎの時間といえば、やはり食後のお茶だ。
 若い頃はお茶などより、まずは食事そのものだった。動く、腹が減る。食べたい、というストレートな因果応報(エだけがあって、あとは何もなかった。
 でも歳をとると、食べたい、という気分が減ってくる。
 週刊文春(2月28日号)の喫煙室と題するコラムにある赤瀬川原平氏の「食後のお茶」の冒頭部分だ。
 食料品の値上がりの主役は年初の小麦から、いま大豆に移っている。中国の消費者物価高の象徴、豚肉の高騰を抑えるためにはたん白飼料源である大豆ミールは欠かせない。豪雪で菜種の不作懸念が広がる一方、アジア産品であるバーム油も値を飛ばしている。食用油原料としても大豆の輸入を増やさなければならない。
 需要面で中国事情が強材料に働く一方、07年産の米国大豆が作付け競争でトウモロコシに大きく譲歩して2割減産となった結果、期末在庫が大きく落ち込んでいる。供給不安が急速に広がっている。
 米国では小麦、トウモロコシ大豆の三者間の農地争奪戦が始まろうとしている。カギは作付け期の値段。小麦高が大豆高騰の種を蒔き、大豆高がトウモロコシの値上がりを呼ぶ。早春の小麦、大豆史上最高値更新の背景である。
 サブプライムより大豆高の打撃が大きいという、前出FTコラムの説く通りであろう。
 小麦、トウモロコシ、コメ、それに大豆、途上国の貧困層を飢えに追いやる大型農産物の値上がり劇を追うようにコーヒー、ココア、紅茶のソフト商品が高値を競い始めている。
 「供給不安がソフトコモディティーを記録的高値に押し上げ」FT(19日付)市場と投資面のニュース分析欄の見出しである。
 「コーヒー、ココア、紅茶市場が沸騰点に近づいている。需給事情に加え、食料品インフレへの懸念が投機買いをあおっている」
 記事からソフト三商品の値上がり状況を抜き出してみる。
 ●国際コーヒー機関(ICO)のネスター・オソリオ氏は「タイトな需給ファンダメンタルズが投機買いを誘いやすい」と述べている。
 アラビカ種は2月第3週に10年振りの高値を付け、1年で36%上がった。
 ●ソフト商品市場は伝統的に大量の投資資金を呼び込み、特にコーヒーとココアの価格変動は大きい。現下の状況もその伝統の延長線上にある。例えば、先高見込みの投機買いでニューヨークココアは先週24年来の高値を付けた。
 ●高騰は投機買いだけによるものではない。コーヒー市場のファンダメンタルズは良好、最大の産出国であるアイボリー・コーストの選挙控えの政情不安がココア相場を支えている。
 紅茶では最大手輸出国、ケニアの国情不安(選挙結果をめぐる対立)が供給不安を誘っている。
 ●ソフト三商品のうちで、コーヒーがタイト市場の代表格。需要が供給を上回って伸び、在庫が大きく減り、天候による生産障害への反応を大きなものとする。
 赤瀬川氏のコラムではないが、小食の老人にはお茶代の高騰はちょつとした痛手。
 FTの記事にあるようにコーヒー、ココア、紅茶に占めるアフリカ産品の比率は高い。政情不安による値上がりはアフリカの生産国にとってもマイナス。需要増加が価格を押し上げていくのだとしたら、ソフト産品の上昇はアフリカの貧困解消の一助にもなる。
 食費をさらに削っても、コーヒーを飲み続けようと老人仲間に呼び掛けよう。

 (週刊 先物ジャーナル 08年2月25日 第927号 掲載)