「ソシエテ・ジェネラルの49億ユーロにのぼる目をむくような取引損は、ついにミスター・カッパーを王座から追放した。住友商事に26億ドルの損失をもたらした銅トレーダー、浜中泰男が1996年以降、ローグ(rogue)・トレーダーランキングのトップの座を占めていた」
| ■ Rogues' gallery(大口損失取引) |
年 | | ドル |
2008 | ソシエテ・ジェネラル | 7.2bn |
1996 | 住友商事 | 2.6bn |
1995 | ベアリングス | 1.4bn |
1993 | メタルゲゼルシャフト | 1.3bn |
1995 | 大和銀行 | 1.1bn |
2002 |
アライド・
アイリッシュ・バンク | 691m |
2004 |
チャイナ・
エイビエーション・オイル | 550m |
2007 | キャリオン | 250m |
「1990年代央はメガトレーダーによる巨大損失に彩られた時代だった。1995年にはベアリングスを倒産に追い込んだニック・リーソン、ついで大和銀行の債券トレーダー、井口俊英の損失が露呈、1996年の浜中事件につながっていった」
「それ以降、リスク管理手法が向上したせいか、損失の絶対額は細り、首謀者の存在感も薄れつつあった。アライド・アイリッシュ・バンクの為替トレーダー、ジョン・ラスナックは02年まで5年間にわたって損失拡大を隠し、クレディ・アグリコールの投資銀行部門であるキャリオンの26歳のデリバティプ・トレーダーは、07年に損失を出したが、上司が彼の手の内を知っていたとして罰せられることはなかった」
「巨大損失の復活は驚くに足りない。ローグ活動は取引文化につきものの障害である。リスクを取るには報酬につながり、多少の違反は無視されてきた。面目を損なうことを嫌い、トレーは誤りを隠し、結果としてさらなる損失を生むという癖もある」
英紙ファイナンシャル・タイムス(FT、1月25日付)のローグ・トレーダーというタイトルのコラムを訳出してみた。
バリュー・アット・リスク手法(それは控え目になりがちだが)でみるとトップ9の投資銀行の合計潜在損失は04年から倍増し、12億ドルに達する。ソシエテ・ジェネラルがローグ・トレーダーのタイトル維持もそう長く続くまい。
コラムの結語である。
rogue 名詞=1悪党、ごろつき、悪漢、2(戯言)腕白者、いたずらっ子、ちゃめ─形容句=1群れから離れて凶暴な(ex.はぐれ象、2(人が)一匹おおかみの(適例悪い意味で)、(ex.はぐれ刑事)
rogues gallery 犯罪者写真台帳─FTのコラム面にある巨大損失リストのキャプション。
研究社の新英和中辞典を引いてみたが、rogue にはろくでなしの意味合いが込められているようだ。
住友商事の浜中氏には新聞記者時代、何度も銅市況について取材し、彼の相場予想を記事にもしたが、ろくでなし、とは全く反対の印象だった。過去にさかのぼり、相場戦歴のほどを得々と語ることの多い平均的商社マンから一線を画していたと記憶している。
ローグ・トレーダーを悪漢トレーダーと置き換えるのにためらいがある。
ローグ・トレーダーの新王座、ジェローム・ケルビエル氏(31歳)の横顔いかん。FT(1月27日付)の記事から抜き出してみる。
「彼はハンサムで、服装もきちんとしていた、と語るのは79歳の隣人、コレット・トーマスさん。人となりはよく知らないが、階段で会うとハローと挨拶してくれ、私のペット犬(コギル)、ユラニーを可愛がってくれた。彼の柔道の先生だったフィリップ・オーハントさんは『10年ばかり見ていないが、彼はまじめで役に立つティーン・エージャーだった。一週に二、三回、道場に来て、子供のクラスを手伝ってくれた。彼が好きだし、全服の信頼を置いている』と話をしている。おばの1人、レイモンド・カービールさんによると彼はまだ未婚で父親を2年前に亡くしている。ほかのおば、シルビアン・カービンさんは『ジェロームは何も悪いことをしていない。彼は控え目、まじめな子。1セントもポケットに入れていないと確信している』と話している」
控え目、まじめ─浜中氏にも共通するプロフィールである。
1月19日(土)=ケルビエル氏、ソシエテ・ジェネラルのパリー本部に呼び出され、投資銀行部門トップのジャン・ピエール・マスティア氏に夜を徹して尋問され、約15億ユーロの損失隠しが発覚。
1月20日{日)=ソシエテ役員会で、緊急資本増強を決める。フランス中央銀行が、損失公表前にポジションを閉じることに合意。
1月21日(月)から23日〈水)=ポジションを閉じるが、株式市場急落の最中とあって、損失は49億ユーロに膨らむ。ソシエテの損切りは出来高の約10%を占めたと推定される。
1月24日(木)=取引損失公表。同時に米国の住宅融資関連の損失が20億ユーロと発表(数週間前の見込みより数倍増加)。
FT(1月25日付)の記事から巨大損失発覚の足取りを時系列で追ってみた。
ケルビエル氏は07年12月にそこそこの利益を収めて、ポジションを閉じ、08年に入って株底入れとみて、欧州株価先物を買い建て(ヘッジなし)、雪だるま状に損が拡大したというのが、ソシエテの公表内容だ。
全容が明らかになるのには時間がかかろうが、二つの疑問がある。雪だるま状で損が膨らむ局面で、追証が発生していたはずだが、取引所は何らかの手を打ったのか。
さらにケルビエル氏の玉整理をなぜ、急落局面で急いだのか、デリバティプの世界では投資銀行ナンバーワンとされてきた手腕はいずこ。
金融のプロとはそもなにものぞ、である。
で、考えてみた。腕力に物をいわせる金融のプロが現物商品先物に本格的に参入してきたら、コスト無視、需給無視の腕力相場の場と化すのではなかろうか。
金融のプロと現物商品のプロとはどう共存し、どう線引きしたらいいのか、プロ市場化路線をやみくもに走っていいものか、どうか。