第 239回

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米良 周              
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

金(きん)取りにロシア大富豪
 Going for gold
 英紙ファイナンシャル・タイムス(FT、5日付)一面の絵解き付きミニ解説欄にはこんな見出しが付いている。
 「金を取りに行く」、「金に引かれる」の掛けことばなのだろうか。
 「ロシア最大の金持ちであるローマン・アブラモピッチ氏は4日、ロンドン上場の業績不振会社、ハイランド・ゴールド株の40%取得することで合意した。産金業界に新たな焦点が集まることを示す前兆であるともいえる。カナダのバリッタ・ゴールドが34%の株を持つ最大の株主だが、取引が終結すれば持ち分は20.4%に落ちる」
 別項でバリッタ・ゴールドのムンク会長へのインタビュー記事の一部を載せたが、ムンク氏はここ数年の産金業界の台風の目だった。
 バリッタは05年には産金ランクング3位、06年3月に05年ランキング5位のプレーサー・ドームを吸収、ニューモントから産金トップの座を奪取している。ムンク氏はFTのインタビューで「当面は新たな合併は考えてない。産金会社はあまりにも高くなり過ぎた」と述べている。
 欧米資本に代わってロシア資本の登場。その象徴例がアブラモピッチ氏による買収話しともいえよう。
 ムンク会長はロシアについて「ロシアは100年前の米国にも似た発展段階にある。ロシアのような規模の国がグローバルな存在になる局面では何人かの人、あるいはファミリーが巨大な資金力を持つようになる。ちょうど我々がバングーピルツ家やロックフェラー家を生んだように」と述べている。
 具体的にはロシアの事業家であるオレグ・デリパスカ氏についての発言だが、金を取りにきた男、アブラモピッチ氏をも念頭に置いたコメントかもしれない。
 産金業界への大富豪登場は金が新高値を目ざす前兆なのだろうか、はたまた高値づかみとなるのだろうか。プロ中のプロと目される欧州の中央銀行が保有金を最安値圏でどっと手放したのは20年ほど前。
 で、金のプロとはそも何者ぞ。
◇     ◇     ◇     ◇
 OPEC(石油輸出国機構)は5日、消費国の強い要請をけって、増産見送りをきめた。「供給不足はなく、在庫水準も適正」という。
 「増産せず」を受けて、WTlは一時1バレル90ドルを回復したが、80ドル台後半のもみ合いに転じている。
 FT(4日付)は「08年も原油は上向き基調が続く」という見出しで、市況動向を点検している。
 「原油の年平均価格は03年=31.5ドル、04年=41.5ドル、05年=56.7ドル、06年=66.2ドル、07年=72.5ドル(12月3日まで)と西暦の末尾数字と符号している。08年は平均80ドル台となるのか。ソシエテ・ジェネラルとドイツ銀行の予測は80ドル」
 記事では原油のフォーワード・カーブのグラフを抱いて「このところの反落局面でも長期限月は強基調を維持している。期近限月は3日までピークから11.59ドル下がったが、2015年12月限はほとんど動いていない」と指摘、フォーワードカーブのフラット化と相まって、期近限月の下落幅を抑制する、との見方を紹介している。
 さやの変化も先物相場を占う大きな武器だ。

金、かつてなく強気 バリック・ゴールド会長の見解

 世界最大の産金会社であるカナダ籍のバリック・コールドのピーター・ムンク会長が、FT(11月30日付)の「トップの見解」欄で金相場についての強気論を一間一答の形で披露している。ムンク氏80歳、ハンガリー生まれ、スイスを経てトロントに移る。バリックは北米、南米、南ア、アジア太平洋地域からアフリカに至る27鉱山で約269トン(06年)を産出する世界最大の金鉱山会社。
 ─あなたは金がこんなに上がると予想していたか。
 「大豆が上がる、多くの商品が上がる。いつという時刻表は定かではないにしても、多分予想していたというのが答えだ」
世界の産金ランク
(GFMS調べ、中国除く、06年、トン)
@バリック(カナダ)      268.8
Cニューモント(米国)     184.9
Bアングロコールド・アシヤンテ(南ア)
                175.3
Cゴールド・フィールズ(同)  126.3
Dハーモニー(同)        72.9
EナボイMMC(ウズベキスタン)
                 58.2
Fフリーポート・マクモラン(米国)53.9
Gゴールドコーポ(カナダ)    52.7
Hベナベンチュラ(ペルー)    48.1
Iニュークレスト(オーストラリア)47.7
 ─まだ強気か。
 「かってより、いまの方が強気だ。巨大な流動性を伴ないながら世は不確実性に満ちている。私はエコノミストでもなく銀行家でもなく、さらに予想を生業としているわけではない。が、さらなる買いが見込める一方、供給は限られている。さらなる高値が描ける」
 ─ヘッジンクはあなたが先駆けたアプローチ。なぜ、いまヘッジに冷たいのか。
 「ヘッジンクは特に金のビジネスではフェノメナル(思考・直観によらず五感で認知する)道具。ヘッジを止めたのは環境とムードが変化したからだ。いま環境に適応し、(ヘッジの)利益を刈り取っているところだ」
 ─あなたの買収の数々の試みは首位願望によるものという説があるが、本当か。
 「すべての産業に通じることだが、業界のリーダーには大きなプレミアムが伴なう。
 業界トップは戦術的、金融的な優位性をもたらし、それは株価のプレミアムを呼び込む」
 ─で、規模は鉱山業にとってただいま現在特に重要なのか。
 「規模は非常に重要だ。規模は大規模プロジェクトを引き受けるための金融手段を与える。過去10年、大きなプロジェクトのコストは何倍にもなった。もし、金融力が増強されれば、あなたのポートフォリオにとって重要な事業をより自信を持って入手できる。規模の拡大によって信用格付けもより早く上向く」
 ─ラテン・アメリカの一部の国々が左傾化しているが、鉱山業への影響はどうか。
 「問題であり、プラスでもある。皮肉は嫌いだが、鉱山会社はその産品の価値が上がることを望んでいる。もしある国が国有化したり、産業を締め出したりすれば新規投資は干上がる。増産は制約され、供給は細っていく。これはよいニュースだ。悪いニュースは国有化などは自由貿易の収支、クローバリゼーションヘ衝撃を与え、貧困から多くの人々を救い出した市場経済を損なう」
 ─この商品ブームに乗ってソブリン・ウエルス・ファンド(国富ファンド)の投資活動が目立っているが、どう考えるか。
 「不可避のことで懸念することではない。どこで線引きをするのか。カルパースは国富ファンドか。カルパースはカリフォルニア州政府が保有し管理している。カリフォルニア州政府とクウェート政府はどう違うのか。国富ファンドというラベルを貼ってグローバルな商行為から巨大な流動性のプールを締め出すべきかどうか、きちんと考える必要がある」

 (週刊 先物ジャーナル 07年12月10日 第918号 掲載)