第 237回

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米良 周              
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

商品「野も山も一面強気」ではない
  
 原油(WTl、期近)が21日のアジアの取引時間帯で1バレル99.29ドルと100ドルを指呼の間とした。
 11月第2週末から第3週にかけて調整安をみせたが、再び強い相場が戻ってきた。さっかけはOPECの首脳会談(18日開幕)。増産議論が避けられる一方、OPEC強硬派(イラン、ベネズエラ)から米ドル紙くず論が出るなどドルへの信頼低下をみせつけたからである。
 英誌ファイナンシャル・タイムス(FT、22日付)市場と投資面の「不安定な要因が原油価格に火を付けた」と題する記事から、再び100ドル接近の要因を抜き出してみる。
 「弱いドルとクレジット市場を見捨てた巨大な投機家の群れが商品市場に向けて崩れ込んだというのが一般的な説明になっている」「だが、他の商品、特に銅とアルミなど非鉄金属の下落は石油市場独自の需要と供給、在庫などが相場を押し上げていることを示唆する」
 「結局、市場は米国の経済成長の行方を懸念しており、通常であれば石油の需要を冷やし、値下がり要因として働くはずである」
 「直近の高騰は8月の米国の利下げにあった。利下げ以降、WTlは40%上がったが、S&P・GSCl産業メタル指数はわずか1.7%の上昇にとどまっている」
 で、ファンダメンタルズはどう強気に働いているのか。記事からポイントを列記してみる。
 ・OPECは増産見送りで批判されているが、非OPEC産油国の生産抑制も需給窮迫要因。北海油田、アラスカ、メキシコなどの自然減産が響いている。ドイツ銀行によると、新規開発案件はより技術的に困難なうえ、市場原理になじまない地成に集中している。
 ・需要は前年比日量100万バレル増、一方OPECの生産抑制で在庫水準が落ちている。北半球の暖房需要期を準え第3四半期には通常なら在庫は積み増しとなるが、今年は先進国在庫は6月末の55日分から9月末には52.8日分に落ちている。
 ・供給不足傾向を映し、先物市場ではバックワーデーション(逆ザヤ)が形成されている。逆ザヤ幅は6月末の30セントから、現在1ドルまで拡大して、在庫水準を落とす誘因となっている。これがまた上昇圧力となる。
 ・需要は中国、インド、そして産油国で一向に衰えない。例えばサウジでは1リットル12セント、中国では60セントといった具合に補助策で低位にある西欧では2ドル以上)。100ドル原油といっても、需要減には結び付かない。
 ファンダメンタルズの強さが上昇要因の中核にあるという解説だ。
 投機資金はいかん。記事ではニューヨーク先物市場の非当業者(投機)の買い建て玉は11月第3週に73.9%減ったうえ、取組高も漸減していると指摘している。
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 別項のエコノミスト誌の記事とFTの「ファンダメンタルズは強い」という指摘を重ね合わせると、寒波襲来とともに100ドル相場がみえてくる。と同時に原油相場は決して「野も山も一面強気」でないことがわかる。
 が、100ドル相場に持続性があるか、どうかは別問題。
 米国景気の下降の影響が他に広く伝幡していくとすれば、どうなるか。
 FTの記事ではUBSのジャン・スチュアート氏の見方を紹介している。
 「世界的なマクロ経済の緩やか減速は石油価格にまだ反映していない。100ドル原油は持続性を欠き、08年には70ドル台半ばまでの調整安あるべし」
 夏から秋にかけての国際商品上昇は原油、金、大豆。いずれも需給が上昇を後押しした。砂糖、小麦、トウモロコシ、非鉄金属、ゴムと足踏み商品も多い。
 資源炎上(東洋経済11月24日号)といった特集ほど全商品が燃えているわけではない。
 商品投機はやみくもに走っているわけではない。金商品との違いである。
  
世界経済、高い石油の吸収余地限界に
 石油の価格は経済的フォークロア(民間伝承)に特別の位置を占めている。この何十年かの最もやっかい極まる景気後退は1973年と1979年の突如にして急激な石油の値上がりが先導した。この二回にわたる石油の急騰は石油輸出機構(OPEC)による積み出し制限がもたらした。そしていまもなお経済“ショック”経済環境の急変の教科書的な事例となっている。爾来、石油価格の急騰は成長を阻害要因として懸念されている。
 英誌エコノミスト(11月17日号)経済の焦点面にある「ショック・トリートメント」と題する記事の書き出し部分である。
 「石油高は増税同様、経済に打撃を与える。石油を使う企業はコスト高に直面、石油高が転嫁できなければ、製品は儲からなくなる。消費者はガソリン、暖房油代の上昇で他の商品の消費に回すゆとりが少なくなる。もし、かれらが購買力低下を補うため賃金上昇を求めれば、職を失うだけだ」
 「産油国は石油高の恩恵を受ける。その結果、世界需要への影響は産油国が収入増加分をどう使うかにかかる。石油の増収分は石油輸入国の製品仁多く使われるとしても、世界所得の急激な移転はかく乱要因となろう」
 記事は、石油高の招来する負の経済効果の歴史的事実にもかかわらず、今回はなぜ高値を大過なく吸収してきたのか、について解説している。
 「今回、経済的打撃が小さいのは、石油がぶ呑み体質の改善にあり、経済体質がより順応性に富むようになり、中央銀行のインフレコントロール手腕も向上したからだ」
・先進国ではエネルギー使用効率が向上し、原油価格が実質的に1970年代の高値に並んだにもかかわらず、G7のGDP当たりの石油消費量は大幅に低下している。
・1970年代の硬直的な経済体制下では労働組合の力が強く、賃上げ圧力が働き、石油ショックの影響を増幅した。今日の弾力的な労働力市場は石油ショックをより弾力的に吸収する。
・中央銀行への信頼性が向上、インフレ抑制策が効を奏すると考えている。
 エコノミスト誌が拠りどころとする二つの小論はいずれもこの一年の急上昇は論拠にいれていない。
 「この夏以降の上昇は1970年のショック時の尺度に照らしても急激であり、世界最大の石油消費国である米国は住宅価格の下落、信用収縮がカソリン価格の上昇ともどもに押し寄せている。いずれも消費支出に水を差す」
 「これまでの石油高の吸収は消費者の増大と貿易収支の赤字増大というつけを残し、米経済の体質を弱めている。FEDへの信頼か景気下支えとしての利下げを許容しているが、石油主導インフレの持続はインフレ予想を呼び込み、FEDに引き締め策を強いかねない」

 (週刊 先物ジャーナル 07年11月26日 第916号 掲載)