第 235回

234回 236回
米良 周              
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

原油100ドル接近でインフレ警戒警報
 「原油100ドル接近でインフレ警戒警報1米ドル記録的安値に、エネルギー監視機関懸念強める」
 英紙ファイナンシャル・タイムス(FT.8日付)一面トップにインフレーションという文字が印されている。
 「7日、原油が1バレル100ドルに手の届くところまで上昇、米ドルが記録的安値に振れ、世界的なインフレ復活への新たな懸念が広がった」
 「西側世界のエネルギー監視機関であるIEAは7日、『原油は2015年までに供給危機が生じ、突発的な価格上昇が生じかねない』との警告を発した。また同日、国連の食料・農業機関は『食料の高値は08年も続き、農産物の高値は食品の流通適合段階に浸透、小売値を押し上げよう』とし食料インフレへの懸念を表明した」
 「米ドルは中国が外貨準備1兆4300万ドル)のユーロなどへ分散すべきだと言明したため対ユーロでは新安値、対ポンドでは26年振りの安値に沈んだ。」
 インフレなら我らの出番、7日金は1トロイオンス850ドル(ロンドン)の史上最高値にせまり、銀は27年振り高値、プラチナは史上最高値を更新している。
 「セーフ・ヘイブン(安全への逃避)需要が、金を1トロイオンス850ドルに押し進める」
 FT(8日付)の市場と投資面の記事の見出し。
 金の史上最高値は1980年1月21日の850ドル(ロンドン)。
 「80年高値も安全への逃避需要がなせるわざだつた。旧ソ連によるアフガニスタン侵攻、イランの米国大使館員の人質事件に対抗しての米国のイランへの対決劣勢など地政学的緊張が高まっていた」
 FTの記事では指摘がないが、80年高値時には第二次石油危機が頂点に達し、原油のスポット価格は1バレル40〜42ドル、米ドルも高率インフレ下に大幅に減価していた。
 金を取り巻く環境は80年高値時と類似するところが多い。
 米ソ対決こそないが、米国とイランの対決姿勢は強まり、アフガニスタンでは対政府自爆テロが伝わっている。原油は史上最高値を更新、ドルの信認低下はとどまるところがない。
 「金は850ドルを突破、1000ドル台乗せもあり得る。08年には1200ドル相場も想定できる」(FT記事のブリオンデスク社のロス・ノーマン氏の指摘)。
 史上最高値必至という市場人気は金の需給ファンダメンタルズとすり合わせるとどうか。
 9月13日に公表されたGFMS社の金需給報告書では短期、中期的に金を押し上げる要因は乏しいと指摘、07年後半の金相場を平均690ドル(年末に700ドル〉と予測している。
 690ドル予測を上回るプレミアム部分が金の安全への逃避人気とみることができよう。
 インフレをベースとしてみると、原油に比べての金の出遅れが指摘できる。原油は米国のインフレ率で調整すると、80年高値(スポットの40〜42ドル)は100〜105ドル、名目で史上最高値更新中の原油は80年高値に顔合わせ間近といえる。金は名目値で80年高値に接近中にとどまる。
 80年高値時の金、原油比価の1対20は金の行き過ぎとしても、ここ数年の1対10を援用すれば100ドル原油示現なら1000ドル金が想定できる。
 短期・中期的に金の高騰劇を阻止するものはなにか。
 (A)需給ファンダメンタルズ=需要の中核であるジュエリー加工が落ち込み、回収金が増えていく。日本などアジアの現物投資部門の利食い売りが増える。
 〈B)実需給以外の要因=OPECが増産に動き、原油が急反落する。協調介入などによってドル安に歯止めがかかる一方、インフレ抑制のため世界的な金融引き締めによって過剰流動性が縮小する。
 (A)要因は800ドル超のゾーンでは働きそうだが、(B)要因の動きは見込みにくい。
 調整は100ドル幅でいつあってもおかしくはないが、金の長期上昇活動はなお続くとみたい。
 商品先物の投機妙味は高まるばかりだ。

 (週刊 先物ジャーナル 07年11月12日 第914号 掲載)