第 229回

228回 230回
米良 周              
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

ディスインフレ時代の終えん
 「米国のサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)市場の崩壊に誘発された劇的な金融危機は金の強気市場の新たな段階の出発点となる、と我々は考える。金は投資家がリスク資産と高い利回り追求から距離を置くという市場心理の大変容期こそ出番となるべきである」
 「この見方に逆行する形で、金は8月の売り圧力人気のなかで、当初はもうひとつのリスク資産と一部に指摘される動きをみせた。8月のこの金売りの多くは不本意なもので、ファンドのレバレッジの引き下げと現金確保目的によるものだった」
 「だが、既に投資家は伝統的な金はリスクの低い資産であるという見方に回帰する兆しをみせ始めている。結局のところ、つい最近まで人気を集めていたペーパー資産と異なり金はその価値を保ち、市場は買い手にも売り手にもよく機能し続けている」
 英国のメタル調査・コンサルティング会社、GFMS社が13日公表した金の最新需給報告書「ゴールド・サーペイ2007アップデート1」の「要約と価格展望」の冒頭部分である。
 「短期、中期的に投資需要以外には金を押し上げる要素は乏しい。公的金売却は数ヵ月前に想定された線以上の水準が続く一方、鉱山のへッジ売り売りが日立って減り、その買い戻しのパンチ力は低下している。07年後半の新産金は前年同期比でわずかながら減り、回収金はよほどの価格上昇がない限り、目立つ材料とはなり得ない。つまるところ、残る上昇への復帰は投資需要。おそらくは年末までに700ドル台に押し上げるだろう」
 GFMSの価格予想だ。
 投資需要が喚起されるという根拠として、報告書があげているのは次の点だ。
 @金を安全な金融へッジ手段とみる投資家が増え、例えば非鉄金属などが世界的鉱工業生産の低下とGDPの成長鈍化に影響を受けるのに比べ、金は他のピュアー(純粋)商品と一線を隔す。
 A我々は金融危機は沈静せず、深まる方向にあると考える。今回の危機は1998年のLTCMの破綻のように分離され、封じ込め可能なものではなく、持続性を欠く近年の信用と負債の膨張による。このバブルの崩壊は米国の住宅部門で際立ち、米国の短期金利の引き下げは避けられない。利下げは米ドルの価値低下につながる。ともに金相場に利する。
◇     ◇     ◇     ◇
 「金、利下げ決定に先立って、キーとなる700ドルを上回る」
 英紙ファイナンシャル・タイムス(FT、15日付)の週間商品市況欄の見出し。
 「石油と小麦が今週(10〜14日)史ヒ最高値を更新、金は次週の重要な米金利決定に備え、キーとなる700ドル超えで足場を築いた。米金利の動向は貴金属と非鉄金属への方向指示の役割を果たす。ドイツ銀行のミカエル・レビス氏は『米ドルのさらなる弱さが、08年の金800ドル超えを支援する』と占っている」
 9月第3週の1バレル80.2ドル(WTI期近)、小麦の1プッシェル、9.11、1/4(シカゴ)、そして700ドル超えの金。
 GFMS社の年末までに金700ドル台は前倒しの形で実現した。
 「金は純粋商品と異なる金融ヘッジ手段」という指摘にほか、純粋商品自体の上昇が支援した面もあろう。
 8月の売り人気から9月の買い人気の先導役はさしづめ原油だろうか。
 OPEC石油輸出国機構)による11月からの日量50万バレルの増産は「小幅に過ぎ、遅きに過ぎる」として材料視されなかった。世界の石油生産は第3四半期に日量65万バレル縮小していると推定されるだけに、50万バレル増産の効果のほどは大きく疑問視され、平年より寒い冬になれば90ドル突破もありうるという予測を呼んでいる。
 「80万ドル原油OPECもハッピーではない」
 FT(17日付)にはFT、COMからの転載が出ている。OPECのアブトラ・エル・バドリ事務局長はFT記者に次のように語っている。
 「80ドル原油は市場のファンダメンタルズの支えを欠き高過ぎる。OPECは信用収縮に打ちひしがれる世界経済の活性化を求めて増産を決めた。にもかかわらず、石油アナリストは小幅に過ぎ、遅すぎるという。OPECの決定はあらしが米国の数ヵ所の製油所に打撃を与えた時期と重なり、メキシコでの反乱者によるガスパイプラインの爆破の次の日という時期の悪さだった」
 だが、原油の上昇は需要の端境期(ガソリン需要と灯油需要のはざま)にしては早き(時期)に過ぎ、速き(上昇スピード〉に過ぎるのではなかろうか。
 早き、速きに過ぎる背景には中国とOPEC自体の需要増加が世界需要増加の55%を占め、米国の増加寄与は12.5%に過ぎない(2000〜06年)という実績を踏まえ、米国の景気減速の影響はその分減殺されるという見方がある。
 「商品の上昇トレンドは機関投資家の新たな資金参入を呼び込んでいる。
「「ロングオンリーのインデックスは07年6月末で1200億ドルと06年6月末に比ベ50%方運用資産規模が拡大している。年末にかけ増勢テンポが速まろう「AIGファイナンシャル・フロダクツのダニエル・ラープ氏)」(FT19日付、商品欄)
◇     ◇     ◇     ◇
 「ディスインフレ時代を産み出した基本的要素は後退し始めている。2030年に至る間のインフレ率は近年の低率から1939年から1989年の平均4.5%に近くなろう。米連邦準備理事会(FED)には、米国民とその代表の全面支持なくして長期にわたつて高率インフレへの復帰を抑えることはできない。結局、インフレに適応するか、抵抗するかを決めるのは人、あるいは機関ではなく国である」
 注目を集めるFEDの金利決定(18日)の前日、前FED議長、アラン・グリーンスパン氏の回想録が発売された。インフレ復活を予測する文章はFT(17日付)書評から引用した。
 FT{17日付)にはグリーンスパン氏との長尺インタビュー記事が載っている。
 「もし、グリーンスパン氏がいまなおFED議長なら金融市場の混乱にもっと早く、もっと素早く利下げで対応したと多くの人は考えるだろう。そうではない、とグリーンスパン氏は答える。いま私が議長だった時に比べ、はるかにむづかしい時代にいる。我々はインフレ復活を懸念しなかった。だが、いまやインフレには注意を払わねばならず、したがって危機対応のための利下げには十分の配慮を要する」
 なぜ、成長よりインフレ警戒なのか。インタビュー記事からグリーンスパン見解を抜き出してみる。
 ・米国は生産性の伸びが低い時代に入りつつある。技術改新余地は、1990年代の活況に比べ、現在のところ飽和状態にある。
 ・グローバリゼーションによるディスインフレ効果は間もなく変わり目を迎えよう。中国、旧ソ連圏何10億人の労働者のグローバル市場への統合は世界物価にディスインフレ効果を与えた。この効果はゼロに近づく。
 ・コスト圧力が加わり始めている。原油は1バレル100ドルが予想され、米国はじめ先進国の老齢化に伴なう支出増で財政悪化が懸念される。こうした環境下ではインフレ期待感は上昇する。
 「危機に対応しての利下げには慎重であれ」
 インタビュー記事でのグリーンスパン提言予想の上限である0.5%の利下げに踏み切った。
 金融危機浮上前の水準への復帰どころか、国際商品は利下げを受けて高値記録更新ラッシュの様相である。
 インフレ期待感のなせるわざなのか、バブル、フロースの数なのか。
 「人類はバブルを避けることはできない。彼らは学ばない」
 グリーンスパン氏のことばだった。
  
世界の金需要 (単位:トン、GFMS調べ)
 
2006
07年
推定
06年
06年
前半
06年
後半
07年
前半
06年
前半比
07年
後半予測
06年
後半比
供 給
 
 
 
 
 
 
 
 
 
新産金
2,477
2,488
0.4%
1,171
1,305
1,201
2.6%
1,284
-0.6%
公的金売却
352
502
42.5%
218
135
226
3.6%
277
105.4%
回収金
1,105
856
-22.5%
627
478
454
-27.6%
402
-15.9%
推定投資家売却
-
110
n/a
-
-
212
n/a
-
n/a
供給計
3,934
3,953
0.5%
2,016
1,918
2,093
3.8%
1,962
2.3%
需 要
 
 
 
 
 
 
 
 
 
加工 
 
 
 
 
 
 
 
 
ジュエリー
2,279
2,597
13.9%
1,047
1,232
1,288
23.0%
1,309
6.3%
その他
640
681
6.4%
323
317
347
7.3%
334
5.6%
加工計
2,919
3,278
12.3%
1,370
1,549
1,634
19.3%
1,643
6.1%
地金退蔵
223
294
31.7%
86
137
154
79.4%
140
2.0%
ヘッジ買戻し
369
382
3.6%
282
86
305
8.0%
77
-10.8%
推定投資家購入
423
-
n/a
278
145
-
n/a
102
n/a
需要計
3,934
3,953
0.5%
2,016
1,918
2,093
3.8%
1,962
2.3%
価 格
ロンドン、午後の値決め
1トロイオンス当たりドル
603.77
674.00
11.6%
590.00
617.54
658.12
11.5%
690.00
11.7%

 (週刊 先物ジャーナル 07年9月24日 第907 掲載)