第 228回

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米良 周              
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

金に食料品インフレの援軍
 「鈍重な金」「金は市場混乱時の実証済みの支え」
 サブプライムローン(米国の信用力の低い個人向け住宅融資)ショックの大波がひとまず去りかけた時期に英紙ファイナンシヤル・タイムス(FTの紙上で金をめぐる議論が交わされた。
 「鈍量な金」は8月25日付のザ・シックス・コラム欄の記事の見出しだ。
 「クレジット市場の喧騒はあまたの真実と信じられていた事例をぐらつかせた。例えばトリプルAの安全神話。はたまた恐れおののく投資家に金に殺到する。もし、金が安全な逃避先(セーフ・ヘイブン)という地位を示そうとするなら、それは月曜(20日)だった。米国の3カ月財務証券は投資家が政府債に走った結果。約200ポイント下がった。この劇的な質への逃避は金を天井まで押し上げてしかるべきだった。か、金曜から火曜まで1トロイオンス657ドルに張り付いていた」
 「金は結局のところ単なる金属(メタル)に過ぎず、市場心理は高リスク資産に対すると同様、理性を欠く。金は希少でもない。過去に採掘された分のほとんどは地上に存在する。07年の需要のうち4分の3はジュエリーに向かい、産業用は10%に過ぎない。金はまた利子を産まない。もっとも金融当局の動き〈利下げ含みを指す?)からすると、この相対的に不利な要件はそう長くは続くまい」
 「金が光沢を欠くもうひとつの理由は世界的にインフレが落ち着いていることであろう。価値貯蔵手段としての金は究極の実物資産とされている。だが、ゴールドマン・サックスの調べによると、過去20年、インフレと金価格はほとんど相関していない。ゴールドマン・サックスは金はマネーのように動くため、通貨のバスケットに対して評価されるべきだ。その基準では金はいま10%方過小評価されていると指摘している」
 「他の要因はもっと強い面をのぞかせる。まずインドと中国のジュエリー需要ブームがある。金の需要合計は07年第2四半期、前年同期比で19%増え、新産金は横ばいとあって、中央銀行の売却はあるものの、金市場はタイトである。だが、インド、中国の富の増加は長期的に金にとって強材料だろうか。金融機関のインフラが整備されるにつれて、おのれの貯えを身に付けるへきは消えていくかもしれない」
 コラムの全文を訳してみた。サブプライム問題に大なり小なり巻き込まれた国際商品市況の行方を考えるヒントが詰まつていると考えたからだ。
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 「金は市場混乱時の実証済みの支え」
 ザ・レックス・コラムの「鈍重な金」への反論はFT(9月1日付)投稿欄の小論。投稿者は金の調査・啓蒙機関、ワールドゴールドカウンシル(WGC)のエコノミック・アドバイザー、ジル・レイランド氏。
 レイランド氏の反論を抜き書きしてみる。
・近年、金を購入する投資家の理由のひとつは世界的な経済ブームが過度に負債に依存しているという点だ。彼らは金が過去5年に平均年率16%の上昇をみせただけでなく、過去数週の金融騒乱にも影響されることがほとんどなかったことでも報われている。
・金の収益は多くの主流の金融資産と相関性を欠くという多数の調査、研究事例がある。相関性の欠如は金融非常時にも保たれてきた。今回もその例にもれない。
・金はその購買力を何世紀にわたって維持してきたことも証明されている(近代の重きを置くいかなる通貨にも通じないことである)。
・最後に、長期的にみてインドと中国の富の増加が金にとつて強材料に働かないという主張には信じるに足る理由がない。いずれも最大級の金市場だが、一人当たりの消費量では米国に比べ、インドで半分以下、中国はさらに低い。両国市場には成長の余地が大きい。ザ・レックス・コラムとWGCのエコノミスト氏のいずれに与みするか。
 先物市場のファンではあるが、こと金に関してはまず現物ありきで考える筆者はWGCの啓蒙に軍配をあげる。
 まず現物ありきから、東京工業品取引所のミニ金には異論がある。初心者が先物にまずなじむという商品設計はいいとして、現物受渡しがなく、現金決済だけという仕組みはいかがなものか。
 一物二価を避けるにはこの手(現金決済)しかなかったという意見も根拠なしとしたい。
 キロバー、500グラムバーが日本の現物投資前線では主流にしても、100グラムバーの人気も根強い。ボーナス時に1〜2本という購入もある。100グラムバーにはバーチャージが上乗せされる。だから100グラム現物先物ならバー・チャージが乗り、結果として1キロ現物先物の上ザヤになり、一物二価となる。
 1キロバーをぼんと10本も20本も買う層と、100グラムバーをこつこつと買う層、現物前線では一物二価。ならば、バーチャージを上乗せした現物先物市場があってもいいのではなかろうか。
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 「モスクワ、小麦輸出検討」
 FT(3日付)に扱いの比較的小さい記事が載っている。
 「世界5位の小麦輸出国であるロシアはは12月の議会選挙を控え、国内の食パンの値上がりとインフレ傾向を憂慮している。穀物トレーダーによると、モスクワは小麦の部分的輸出禁止か小麦輸出への高率関税で輸出を抑え込むことを検討している」
 「第6位の小麦輸出国であるウクライナは6月に輸出禁止的高率関税制を導入、世界2位のバーム油輸出国インドネシアは8月末にバーム原油の輸出関税を10%引き上げ、国内価格抑制に乗り出した」
 世界の小麦輸出国シェア(%)は米国@(24)Aオーストラリア(16〉Bカナダ〈14)CEU(13)Dロシア(9)Eアルゼンチン(7)Fウクライナ〈5)Gカザフスタン(3)Hトルコ(2)I中国(1)
 北半球のカナダ、ウクライナは減産確定、南半球のオーストラリア、アルゼンチンでは降雨不足下に減産予想が強まっている。
 一方、インド、エジプト、韓国など輸入国はろうばい買いのただ中にある。
 ロシアの小麦輸出禁止は実現すれば先行き輸出市場での競争力低下につながりかねないが、とりあえずは国内の安定を優先策が先行するのではないか。
 穀物・油脂原料はバイオ・フューエル向けという戦略的拡大用途を抱え、資源の色合いを強めている。
 世界的耕地拡大の余地減少、異常気象の常態化──。8ドル(1プッシェル)小麦、しかも8月の月間上昇率(シカゴ)は30%と1973年8月以来の記録的月間上昇率である。
 8ドル小麦はパニック買いの結果で行き過ぎとしても、供給余力の低下、途上国の所得向上による需要増という国際商品全般に共通する需給構造が穀物・油糧種子に及んできたというシグナルではないのか。
 食料品インフレの芽生え、これは”鈍重な金“にとって上昇への援軍となる。
 プライムショックの余波で沈んだ「国際商品夏の陣」は強い需給ファンダメンタンズを織り込む「国際商品秋の陣」へと移った。
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 7日、原油と金が上がり、小麦が利食いで押した。
 原油、金の上昇はイスラエルがシリアを空爆というニュースが伝わり、中東地区での紛争拡大懸念が広がったことが材料。ドイツでフランクフルト空港と米国基地を攻撃する計画のイスラム過激派のテロ容疑者がつかまり、地政学的緊張が高まったことも上昇を後押しした。
 原油(WTI)は8月1日の史上最高値〈1バレル・78.77ドル〉にせまる77.43ドルを付け、金(ニューヨーク先物12月限)は目先の高値抵抗線とされる1トロイオンス700ドルを突破、706ドルに達した。
 「夏場にふんばったのだから一休み。上昇路線の先導役は石油と金にひとまず譲る」と小麦が述べたかのような商品上昇ストーリーである。
 かくて、商品秋の陣は高値波乱パターンですべり出した。

 (週刊 先物ジャーナル 07年9月10日 第905 掲載)