第 226回

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米良 周              
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

客の損前提の社は消える
─新入社員の質問に答える─
 いま真剣な質問への返事を出し渋っている。4月下旬、商品取引員の新人社員に「戦後商品取引員の歩み」と「日本版 Big Bangと商品先物業界」と題して1時間話をする機会があり、いつでも何でもご質問下さいとして、エム・ケイ・ニュースのファックス番号を資料に付記した。2人の方からアプローチがあった。]社のAさんからは「今年は桜の開花が早かったから、冷夏になるのではないか。小豆を買おうと考えている」という私の話に応じて、小豆のチャートと解説のファックスが毎日届く。7月1日から外回り、と楽しそうな電話もきた。
 Aさんはいいとして、Y社のBさんである。几帳両な字と文体で大要次のような質問がきた。
 @商品先物はお客様の損で成り立っているように感じるがどうか、A21世紀は10兆円規模の業界になるという予測を聞いたが、実現性のほどいかん、Bピック・バンで他業種が参入してきたら既存の商品取引員は消し飛んでしまうのではないか、の3点である。
 質問状を受け取ったのは5月早々である。もう2ヵ月以上返事が書けない。特に@に関してはどう書いたらいいものか。
 銀行も証券会社も泥にまみれ、高杉良の小説『金融腐食列島』がノンフィクションと読めるほど善意の客はこけにされている。商品取引員ひとり水清しなのだろうか、という疑問が拭い切れない。
 無断売買、仕切り拒否といった古典的な禁止手は過去の話と割り切れば答は簡単である。
 @への答=「商品先物は本質的にはゼロサムゲームですから、まず半分の客は損をします。それに往復の手数料が食い込みます。そこでまた半分の客の帳尻が合わなくなります。商品相場の分析手法に”買い長は売り、売り長は買い“というのがあります。買い長とは商品取引員のうち玉尻が買い越しになっている店が売り越しになっている店より多いケースを指します。売り長は逆です。売り建てと買い建ては同数ですから、買い長は買い建てが分散しているのに、売り建ては集中していることを示します。個別分散より、固まった少数の売り勢力の方が資金面で有利なことが多かったところから出てきた分析です。個人の小口役資家はこの面でも不利で、また半数の客が損勘定になります。ざっと75%の客は損をするのが商品先物の歴史であり、事実でしょう」「ヘッジ利用の客は保険料として損失は計算の上、その分投資家の取り分は増えるという反論もありますが、日本の場合、ヘッジ比率はかなり低く、この反論は通りません。米国でも90%の個人投資家は負け組といわれます。だが、資金効率の高さで先物にまさるものはありません。ゲームの感覚で参加する新しい投資家も出てきました。客の損で成り立っているという前提を立てるのではなく、客の資金の性格に沿って、ずばり先物からオプション、商品ファンドと品揃えを豊にすることをお考えください。客はそれほどおろかではありません。客の損を前提にした商品取引員は仮に存在するにしても、客の取引先選択の中で消えるはずです」
 Aへの答=「10兆円は達成可能だと思います。原油、コメ、コーヒー、食肉といった商品はいずれ上場されます。隣接の商品ファンドも98年には1口 500万から 100万円と小口化され、成長商品に転じます。外為の自由化は円建て預貯金に傾斜した日本人の資産運用パターンを大きく変えるきっかけになります。国際商品の円建て先物はいってみれば為替の先物です。円資産運用の多様化、分化といった尺度から商品先物が見直されていきます。さらにずばりドル建ての商品先物が日本にも誕生します」
 Bへの答=「消し飛ぶ商品取引員は出てきます。だが、先物の仕組みに通じ、商品知織豊かな人材は消し飛びません。証券なり、金融機関の参入組にとって、そういう人材は欠かせないからです。スカウト合戦の対象になるよう研鑽されんことを──」
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 ちょうど10年前、エム・ケイ・ニュース社発行の「エクスチェンジ」(1997年7月1日号)で書いた私のコラムの一部を転載してみた。
 7月31日、東京穀物商品取引所が招いてくれた専門紙記者との懇談会で、最年長記者として乾杯の音頭取りを命じられた。渡辺理事長の簡潔なあいさつのあと気が引けたが3分間の時間をいただき、コラムの予言部分を紹介した。
 @、Bは大筋では間違ってはいない。
 預かり10兆円は遠く及ばず。答Aは大曲がりである。ドル建ての商品先物は生糸を先頭にと思わせる場面もあったが、先陣の生糸がついえた。例示した新規上場商品のうち原油、コーヒーは実現したが適中率は50%。オプションの火も消えかかり、商品ファンドも成長テンポは鈍い。それになによりも中核の商品先物の出来高・取組高とも低迷の域を出てはいない。円資産運用の多様化、分散化では為替証拠金取引に大きく遅れをとっている。
 なぜだろうか。
 無断売買、切り拒否といった禁じ手が過去の話ではなかったこともあろう。
 1998年の商品取引所法改正で省令の形で打ち出された禁止行為がある。@委託をしない意思表示をした者への勧誘禁止(再勧誘禁止)A迷惑を感じさせるうな時間帯や方法による勧誘の禁止B決済終了の意思表示をした顧客への継続的勧誘の禁止、などである。
 04年の法改正ではこれら禁止行為は法に格上げされた。裏を返せば懲りない面々がなお居残っていたからだろう。商品先物業界の失われた10年と評することができる。
 だが、懲りない面々の多くは04〜07年で退場した。
 答@実現へ、改めて舞台は整い始めている。
 3分スピーチの最後に「穀物商品取引所と言いながら三大穀物(コメ、小麦、トウモロコシ)のうち一本柱。新理事長の任期中に三本柱を整えてほしい」と要望した。失われた10年の反省はできたという思いからである。
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 8割方書いた本(まだ版元に伝えていない意中の書名は「商品取引を愉しむ」の執筆を6、7月と中断していた。新調した入れ歯の調子が悪かったせいか、食欲さらに落ち、出勤するだけで体力を消耗したせいであるというのが言いわけである。
 新入れ歯にもやっとなれた。商品先物出直り元年という思いで8月中脱稿を目指す。
 書き残しているのは個別商品編の農産物とエネルギー。ともに変動幅がとみに大きさを加えている。書く対象としても魅力十分といえる。

 (週刊 先物ジャーナル 07年8月6日 第901 掲載)