「資源高騰のつけは製品に回り一般物価高となる。インフレ進行懸念の強い欧州では金利引上げのテンポが速まりつつある。米国では利下げ観測が後退、据え置きから利上げへという見方も台頭している。ガソリンから食料品への値上がりの輪が広がっている」
「25年にわたるディスインフレの時代から、インフレ懸念の台頭へ、である。金の持つ三つの資産保全機能一米ドル価値低下、国際情勢不安(地政学的リスク)、インフレ率上昇のうち絶えて久しかったインフレ率上昇への保全機能が浮上の時をうかがっている」
「80年はじめの第二次石油危機のピーク時、金は850ドル(1トロイオンス)、原油は40ドル(1バレル)だった。原油はこの夏80ドルをうかがう。金は原油との対比でも出遅れている」
年に数回、書かせていただいている商品取引員大手A社の月刊誌への寄稿である。
10数年来、寄稿しているが編集部からの注文は一切ない。強目にとか弱目にといった注文と示唆があった方がむしろ書きやすいと思う時がある。だが、記名原稿とは本来おまかせが筋である。
夏風邪を理由に10日の締め切りを1日延ばしてもらったが、執筆時点と2週余を経過した26日(この原稿執筆時)でやや情勢の変化している点と変わらぬ点がある。
変化のひとつは米国のサブプライム問題に端を発した投資の世界のリスク回避機運の高まりである。だが、これは金融機関を中心とした米国株式安とドル下落につながれば金の強材料に働らく。
インフレ懸念はどうか。英紙ファイナンシャル・タイムス(FT,20日付)のコラム(ザ・ショート・ビュー)には次のような記述がある。
「金はかってインフレヘッジ財とされていた。だが、06年5月、インフレ懸念が世界の株価を調整安に追い込んだにもかかわらず、金は月間で22%下がった。金はもはや株価、インフレへのヘッジの役割を果たさず、弱いドルへのヘッジ機能を持つだけだ。ここへきての金上昇はドル売りと符号している」
この見方への反論がFT(25日付)投稿欄に載っている。
「06年5月の金下落は世界的インフレ懸念は確実な証拠に基づくものではなかったために生じた。金がインフレあるいは株価へのヘッジとしてもはや働かないというなら統計上意味ある期間をとらえるべきだ。過去3年間の多くの資産(英国株、地元株など含む)と金の間には明らかに相関性がない。インフレに関していえば、短期では相関性はみられないこともあるが、長期的には金はヘッジの役割を果たしてきた。過去3年、インフレヘッジ目的で金に投資した人々が不平をもらすとは思えない」
投稿者はWGCの投資研究部長、ナタリ・デンプスター氏。資産運用の分散先として金をとらえよと主張しているWGCとしては一、二回の事例でがたがたいうなということなのだろう。
月間2万円の純金積み立て歴20年余の筆者にとってはデンプスター氏サイドに軍配をあげたい。
A社への寄稿原稿の中での「原油はこの夏80ドルをうかがう」はどうか。
英誌エコノミスト(21日号)には「OPEC(石油輸出国機構)再び石油価格の行方を託される」という中見出しの記事が出ている。「06年の80ドルに向けての原油高騰は『懸念要因』によるものだった。原油は供給不足ではなく、在庫も増えていた。だが、増産余力がなく、メキシコ湾岸のハリケーン、イランをめぐる政治混乱などが供給不足を招きかねないという懸念が走ったせいである。だが、両懸念材料が具体化せず、在庫が増え続けると、原油高は消えた。今回の原油高騰は事実が懸念に取って代わった。生産を需要が上回っているという事実だ」
記事の説く事実を列記してみる。
・06年夏、在庫増に対応してまずサウジが減産した。OPEC総会でも減産が決まりopecは06年夏に比べ日量100万バレルの減産下にある。世界需要は同8400万バレルとこれまた同100万バレル増えている。この結果、通常在庫が増える時期なのに減っている。1999年以来、第2四半期には平均同84万バレルの在庫増が記録されているが、今年は14万バレルの減。年末にかけての供給不足懸念から7月16日にはブレントが78.40ドルを記録した(同日、ゴールドマン・サックスはOPECが増産しなければ年末には95ドルに上がるという事例を発表)
・IEA(国際エネルギー機関)は供給タイトの状況は続き、高値は数年続くという見方を示している。
「OPECは06年と異なり、約日量300万バレルの供給余力がある。高値が世界経済を損なうとみれば増産に踏み切るだろう。だが、そうした見方はOPECの行方はハリケーンや中東情勢より予測可能という見方によるものだ」

エコノミスト誌らしいなんとも皮肉な結語だ。
FT(19日付)の石油特集記事からOPEC外の石油生産予測の図を借用する。増減相半ばし、OPEC次第の原油という構図は変わりそうにない。