第 224回

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米良 周              
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

商品先物、ミセス・ワタナベを振り向かせる時
 「変化が速い。変化のスピードに加え、中味もがらりと変わる。日本の商品先物市場が賑わうはずなのにそうなっていない。変化が理解できず、外に説明する力に欠けているからではないか。変化を認識し、学習し、説明能力を高める必要がある」
 「四つの変化を指摘したい。@国境の障壁が低くなるグローバル化A途上国の近代化によって例えば大豆の輸出国だった中国はいまや大口の輸入国B資源の枯渇化C少子老齢化、だ。資源の枯渇化でいえば日本の森はセルロース系バイオマス燃料の宝庫で、水田はコメの増産でいつでも(でん粉系)バイオマス燃料の供給源となりうる。少子老齢化でいえば1500兆円の金融資産の65%は60歳以上の年齢層の手中にある。その資産運用の受け皿の一部として商品先物を考える余地がある」
 10日、東穀協会、東京穀物市況調査会共催の夏季特別講演会での渡辺好明東京穀物商品取引所理事長のあいさつの要旨である。
 主催者によると申し込み 330人で東穀取引所の大会議室は定員 220人、1階ホールへの中継で受講者を収容した。
 2、3年前はこの種の企画では多くて 100人といったところだったのに比べ様変わりだ。学習し、説明能力を高めていこうという意識が外務員諸氏に浸透し始めたということなのだろうか。
 受講者の中で筆者がおそらくは最高齢。丸紅経済研究所の柴田明夫所長の80分レクチャーだけで失礼した。
 第二部の「ラニーニャ現象、バイオエネルギー動向と穀物市況」のパネルディスカッションの内容は商品データに掲載されるはず、月曜にじっくり読むとしよう。だらだらとテレビを見るなら数時間もつが、中味のある話はせいぜい80分が”理解体力“の限界である。
 メモから柴田レクチャーのポイントを整理してみる。
 「世界経済の牽引役は途上国に移っている。環境、地球温暖化などによるコストの上昇。そのコストアップに見合う値段を市場が模索している」
 「世界経済は04年から5%成長路線にある。振り返ってみると60年代が5%成長だった。日本と西独の工業化がリードした。10年のタイムラグがあって70年代の資源価格のバラダイムシフトを引き起こした。80〜90年代と成熟化経済の20年を経て、5%成長に乗り
始めたのだから、10年はその累計効果が資源価格に反映されていく」
 「1980〜05年までに先進国の物価〈CPl)は 2.5倍に上昇したが、一次産品はほとんど上がらず。結果として実質価格は2分の1以下で低迷してきた。綿花に至っては4分の1〜5分の1。2000年代にようやく一般物価に追い付く動きが始まり、一般物価引き上げの局面に入りつつある。キューピーが6月に17年振りにマヨネーズを値上げしたのは一例である」
◇     ◇     ◇     ◇
 6月だったと思う。英紙ファイナンシャル・タイムス(FT)の為替相場の記事でミセス・ワタナベが円安を加速しているといった表現を数回にわたって読んだ記憶がある。一両日、会社の机の上、自宅の枕元のFTをひっくり返したが見付からない。社の女性は机上はノータッチ、女房が捨ててしまったのだろう。
 ミセス・ワタナベは団塊の世代以上の奥さんを総称しているのだろうか。財布のひもをしっかり握った奥様族が為替の証拠金取引でせっせと円を売って高金利通貨を買う。ヘッジファンドの円キャリー・トレードも顔負けの好パフォーマンス。円が戻り歩調になるとミセス・ワタナベが円安に押し戻すといった記事内容だったと思う。
 米国のサブプライム問題の波及で10〜11日と円高に振れた。が、それも束の間。「リスク回避の動きは再度の円売りに押された。ニューヨークの11日の日中取引では対円で米ドルが 0.1%、ユーロが 0.3%上がり、高金利のニュージーランド・ドルは 0.7%、オーストラリアドルは 0.5%上がった」(FT、12日付通貨欄)
 ミセス・ワタナベが円安の流れ変わらずと読んだからであろうか。
 英誌エコノミスト(7月7日号)には「ビッグ・マック指数」と超する記事が出ている。
 エコノミスト誌のピック・マツタ指数は為替レートは二国間の商品群が均衡する線に収まるというPPP(購買力歩価)理論をピック・マック一品に絞って算出したものだ。
 「多くの通貨はハンバーガー・スタンダードから大きく外れている。中国は58%の過小評価(ピック・マックは11元で現行為替レートでは1.45ドル)。中国元を攻める前に長期的視点が必要だ。ハンバーガーのコストには家賃や労賃などローカル的な要素が占めるウエートが高く、二国間の裁定は働きにくい。途上国通貨が過小評価されているゆえんだ。過小評価の多くはEU周辺のスイス、ノルウェー、アイスランドなどの豊かな国の通貨」「例外は日本で33%の過小評価。キャリー・トレードによる面があるが、より幅広いPPPは結構いい線をついているかもしれない。東京を訪れるニューヨーカーはピック・マック以外のモノとサービスが高いことに気付く」
 せいぜい 500円までの昼飯の我が身では測りにくいが、ミセス・ワタナベは2000〜3000円のランチを楽しんでいるのではないか。実感為替ウォッチにも長けているというべきだろう>
 東穀取の渡辺理事長は豊かな老齢層を潜在的な商品先物顧客と述べられたが、海外旅行を重ね、両替を通じ為替の強弱を実感し、国内でのショッピングでの体験を積み”相場観”を体得したミセス・ワタナベを商品先物に振り向かせるのも手ではあるまいか。
 バンバーガー・スタンダード

ドル建て
ピック・マック価格
pppが
示唆するドル
対米ドル
過少(-)過大(+)
米国
3.41
オーストラリア
2.95
1.01
-14
ブラジル
3.61
2.02
+6
英国
4.01
1.71
+18
チリー
2.97
4.59
-13
中国
1.45
3.23
-58
ユーロ圏
4.17
1.12
+22
日本
2.29
82.1
-33
ニュージーランド
5.89
1.35
*73
ロシア
2.03
15.2
-41
南ア
2.22
4.55
-35
韓国
3.14
850
-8
スイス
5.20
1.85
+53
タイ
1.80
18.2
-47
ベネズエラ
3.45
2,170
+1

◇     ◇     ◇     ◇
 シカゴ・ボード・オプ・トレード(CBOT)をめぐる4ヵ月にわたる合併吸収合戦は同じシカゴ勢のシカゴ・マーカンタイル・エクスチェンジ〈CME)が、新興勢力のインターコンチネンタル・エクスチェンジとの競り合いを制した。
 10日誕生したCMグループは時価総額 300億ドル以上の巨大先物取引グループ。先物をめぐるニューヨークとの都市間競争でもひとまずシカゴに軍配が上がった形だ。
 FT(11日付)には「オール・シカゴの誕生はシカゴ市にとって大成功」という見出しの記事が出ている。記事には政界の先物取引所の出来高ランキングが載っているが、CMグループが圧倒的立場に立ったことがわかる。
 規制当局が無条件で合併を認めたのはロンドン、フランクフルトさらにはニューヨーク勢との競り合いは続き、巨大規模ゆえの取引コストの下方硬直性は避けられると判断したせいなのだろう。
 デリバティプに食指を動かすニューヨーク証券取引所、エネルギーと金属で存在感の高いニューヨーク・マーカンタイル・エクスチェンジ、さらにはインター・コンチ、ニューヨーク勢がどう巻き返すか。
 CMグループの誕生は先物市場の世界的陣取り合戦の終わりではなく始まりにみえる。
先物取引所 出来高(06年、オプションを除く、100万枚)
CME*CBOT
1,780.0
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)
1,101.7
ユーレックス
960.6
シカゴ・ボード・オブ・トレード(CBOT)
678.3
ユーロネクストLIFFE
430.0
メキシカン・デリバティブ取引所
274.7
ブラジリアン・マーカンタイル先物取引所
258.5
ニューヨーク・マーカンタイル取引所
216.3
ナショナル証券取引所(印)
170.6
大連商品取引所
117,7
ICEフューチャーズ(英)
92.6

 (週刊 先物ジャーナル 07年7月16日 第 898 掲載)