相場師と土佐
市場経済研究所代表 鍋島 高明
 相場師は冒険家の同義語である。治世の戦場といわれる市場で危険{リスク)を冒し、時には命懸けで勝負に挑む男たちの後姿には颯爽とした魅力がある。市場は決して女人禁制の場ではないが、女性は似合わない。古来、女相場師として大を成した人を寡聞にして知らない。場立ちからネットへ変わっても、女性の職場ではないように思う。
 古来、相場師の要諦として挙げられる五つの性格がある。
1、機会を見るの明、2、資本を有すること、3、勇気に富むこと、4、思想の緻密なること、5、挙動の敏捷なること。これら5条件のほかに、優れた相場師に必須の要素として、「足るを知る心」が不可欠である。数多くの天才相場師たちが最後の最後で破綻する例を見るのは、朧を得て蜀を望む」からに他ならない。「望蜀」の心をいかに制御できるか、がカギを握る。
 本書に登場する相場師たちが、皆が皆「知足」を心得、「望蜀」を排したわけではない。むしろ、逆に大き過ぎる野望の前に頓死する相場師たちの何と多いことか。かつて岩本巌さんが「相場とは自己の欲望との闘いである」と喝破した通りである。本紙のオーナー米良周氏が崇敬する巖さんの名言として今日に語り継がれるが、その巖さんご自身が「望蜀」の果てに「九仭の功を一簣く」ことの悔いをいく度となく体験されたことか。まさに市場は、人間修行の場である。
 本書でいちばん多くのスペースを割いたのは「相場師」の項であり、次いでは「土佐」。土佐は寄ると触ると龍馬である。空港まで「高知龍馬空港」と改称した。龍馬といえば、やれ「薩長同盟締結」、「大政奉還の勧告」、「勤皇、佐幕の調停」など明治維新の立役者とされるが、わが国初の商社亀山社中(後に海援隊)を組織、事業目的に「開拓、運輸、投機、射利」の四本柱を掲げた経済人としての評価も見逃せない。コンプライアンス(法令遵守)のやかましい昨今、射利は願い下げたいが、投機心漲る平成の龍馬はまだか。
 本書は米穀新聞に執筆したコラムを中心にまとめたエッセイ集である。どこからでも気軽に読んでいただければありがたい。
(米穀新聞社 1,800円+税) ネット販売:五台山書房 

    (週刊 先物ジャーナル 第895号 掲載)