第 218回

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米良 周              
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

食料インフレ懸念が台頭
 「消費者、食料インフレを懸念」
 英紙ファイナンシャル・タイムス(FT、24日付)一面にこんな見出しの記事が出ている。
 「食料品の小売り価格が今年30,年来の大幅値上がりを記録しそうだ。かつてないフード・プライス・インフレ〈食料インフレ)への懸念が台頭している」
 「バイオ燃料産業が拡大する一方、異常気象とインド、中国の繁栄が小麦、トウモロコシ、ミルク、食用油など農産物価格を押し上げている」
 「食品メーカーは食品原料の値上がりを消費者に転換し始めているが、コモディティの上昇は持続する見通しで、食品メーカーはコスト圧迫から減益を強いられよう。米国のチョコレートメーカー、ハーシーは今月大手食品会社としてははじめて、ミルクの値上がりを理由に07年の利益予想を引き下げた」
 FFの記事は食品インフレの事例をあげている。
・米国では季節性調整済みで年初から 6.7%の上昇で06年通年の 2.1%を大きく上回っている。この値上がりが続けば07年の上昇率は1980年以来最大のものとなる。
・英国の食品インフレ率は4月にほぼ6年振りの高水準である6%となり、消費物価の上昇率 2.8%を上回った。
・中国の食品の値段は他の商品の2倍で、4月には前年同月比7.1%高となつた。
・インドは食品インフレ率は、1990 年代末の水準に達し、年寧で10%に達している。
・米国の調査会社、バーンスタインは食品会社が使用する小麦、ミルク、ココア、可食油など12の食品原料で構成する指数の上昇は今年21%に達し、10年前の調査スタート来最大の上昇幅となろうと予測している。
◆     ◆     ◆     ◆
 FTの記事にはドイツ銀行の食品アナリスト、ジョン・バーカー氏の「食料業界では現在のソフト・コモディティの上昇は循環的なものではなく、構造的なものではないかという懸念が強まっている」という発言が紹介されている。
 一つのセミナーを聴講して、お二人の講師のレクチャー内容とピたり符号する。
 セミナー@=講師柴田明夫・丸紅経済研究所所長、5月19日。
 柴田さんは国際商品市況をみるポイントについて説明し、「日欧の1966先代の高成長の影響が70年代の資源のバラダイムシフトを引き起こした。いま世界経済の牽引役は30億人のRRICsに移り、成長率は80〜90年代の3%台から2%前後に上昇している。エネルギー資源多消費経済で素材需給ひっ迫はおいそれとは解消しない」と商品の時代の息長い持続性を強調した。
 柴田さんは世界の食糧需給をみるうえで、次の6点を指摘している。
 @均衡点の変化(量と価格)A世界食糧在庫の減少=1970年代初めとの類似(世界穀物の07/08年度末在庫率は 14.5%、70年代初めの低水準=15.3%を下回るB中国のインパクト{臨界点を超えた=例えば中国の豚肉生産量は1990年の2281万トンから05年は4968万トンへ、同じく牛肉は 126万トンから 711万トンヘ。大豆の輸入が拡大、トウモロコシは輸出余力が大きく低下)C特定作物に依存する世界の食料D遺伝子組み換え作物をどうみるかEバイオエタノールの急増で三つの争奪戦―国家間、市場間(エネルギーと食料)、農業と工業(水と土をめぐる争奪)
 水と土地をめぐる農業と工業の世界でせめぎ合い。中国では明らかに工業が優位。中国が食料品を本格的に呑み込み始めるとき、食料インフレは加速する。柴田さんのレタチャーを聞いての感想である。
 セミナーA=講師伊藤忠商事食料カンパニー食糧部門市場調査室、岩崎正典室長、5月23日。
 岩崎さんは従来型の価格上昇と06/07年度の価格上昇の需給曲線をまず示した。
 演題は「均衡は可能なのか?新穀物年度の穀物需給」
 配布された資料の、需給曲線の下図をみて、新現需要(エネルギーで需要曲線が右に移行している以上、値上がりで需要を抑えるほか、均衡はありえないことがわかった。まさに図表の威力である。
 「トウモロコシの用途ではエタノールが5年前の3000万トンから6500万トンに50%増、産業用途の中心でん粉(保水剤、のり剤、ダンボール接着剤など)が5年間で30%増え、8000万トンに達している。産業用途が浮上、エネルギー源としての政策的需要創設が加わってきた。トウモロコシは米国40%、中国20%というシェアだが輸出では米国が70%。米国産は大増産要請を受け、作付け面積は60年振りの大きさだが在庫は期末でも期初と変わらない。期末在庫は消費の1ヵ月分と綱渡り。大増産でも需給改善につながらない。需要曲線が右にシフトしたからだ」
 「大豆は米国と南米に世界の生産地が二極分化。米国、世界ともに期末在庫が過去最高だが米国で次年度(07年度)の作付け面積の急減(トウモロコシ15%増のしわ寄せ)が懸念され、2年半振りの高値1プッシュル 7.9ドルに到達した。バイオディーゼル需要期待で可食油相場に投機色が強まる一方、ブラジル通貨レアル高が進んでいるため南米大豆増産への歯止めがかかる可能性がある。レアルは02年10月の安値1ドル当たり3.95レアルが07年5月の1.95レアルまで上がっている。手取りが半分になる勘定だ」
 「小麦、トウモロコシ、大豆の相場の推移をみると高下ともに連鎖反応するパターンが強まっている。ある商品になにか生じると同方向に高下する」
 政策に売りなし。エタノールを増産せよというブッシュ大統領の命令。政策相場創出中、といえようと指摘する。政策に向かうことなかれ、久し振りに相場格言を思い出した。
 二つのセミナーは質疑応答を加えてざつと一時間半。老いの身にはとことんこたえた。
 執筆中のわが書物にお二人のお話とデーターを援用するお許しをいただいた。

 国際商品市況をみるポイント
 1、安い資源時代の終焉、ここ数年の原油価格の高騰は、他の資源に先駆けて「新たな均衡点」を模索する動き。→食糧も例外ではない〈水、土という資源も有限に)
2、背景に、人口30億人の地域(BRICs)の工業化:これまでは8億人弱の先進国がエネルギー・鉱物資源を独占できた時代→地球規模の工業化への移行期で、世界経済成長が旺盛な資源・食糧需要に直結する時代。
3、適正価格はどこか:供給不安が強まるなか、エネルギー・資源価格は、限界コストをカバーするレベル。→エネルギーと食糧市場の通勤性が強まる。
↓  ↓  ↓
 資源枯渇の緩和策が喫緊の課題:省エネ・省資源・環境、清算フロンティア(在来型・非従来型)への挑戦、代替エネ・材料の開発

プラチナの需給(JM調べ、単位1,000トロイオンス)
 1997199819992000200120022003200420052006
需給









南アフリカ
3,700
3,680
3,900
3,880
4,100
4,450
4,630
5,010
5,115
5,290
ロシア
900
1,300
540
1,100
1,300
980
1,050
845
890
880
北米
240
285
270
285
360
390
295
385
365
345
その他
120
135
160
105
100
150
225
250
270
270
供給計
4,960
5,400
4,870
5,290
5,850
5,970
6,200
6,490
6,640
6,785
需要









自動車触媒:グロス
1,830
1,800
1,610
1,890
2,520
2,590
3,270
3,490
3,795
4,195
回収
(370)
(405)
(420)
(470)
(530)
(565)
(645)
(690)
(770)
(855)
化学
235
280
320
295
290
325
320
325
325
360
エレクトロニクス
305
300
370
455
385
315
260
300
360
425
ガラス
265
220
200
255
290
235
210
290
360
390
投資:小口
180
210
90
40
50
45
30
30
30
25
投資:大口
60
105
90
(100)
40
35
(15)
15
(15)
(65)
シュエリー
2,160
2,430
2,880
2,830
2,590
2,820
2,510
2,160
1,965
1,605
石油
170
125
115
110
130
130
120
150
170
205
その他
295
305
335
375
465
540
470
470
475
490
需要計
5,130
5,370
5,590
5,680
5,230
6,470
6,530
6,540
6,695
6,775











在庫移動
(170)
(30)
(720)
(390)
(370)
(500)
(330)
(50)
(55)
10











平均価格
(トロイオンス:ドル)
396
372
377
545
529
540
691
846
897
1,143

パラジウムの需給(JM調べ、単位1,000トロイオンス)

1997199819992000200120022003200420052006
需給









南アフリカ
1,810
1,820
1,870
1,860
2,010
2,160
2,320
2,480
2,605
2,905
ロシア
4,800
5,800
5,400
5,200
4,340
1,930
2,950
4,800
4,620
3,900
北米
545
660
630
635
850
990
935
1,035
910
985
その他
95
120
160
105
120
170
245
265
270
270
供給計
7,250
8,400
8,060
7,800
7,320
5,250
6,450
8,580
8,405
8,060
需要









自動車触媒:グロス
3,200
4,890
5,880
5,640
5,090
3,050
3,450
3,790
3,865
4,015
回収
(160)
(175)
(195)
(230)
(280)
(370)
(410)
(530)
(625)
(800)
化学
240
230
240
265
250
255
265
310
415
420
歯科
1,350
1,230
1,110
820
725
785
825
850
815
800
エレクトロニクス
2,550
2,075
1,990
2,160
670
760
900
920
970
1,065
ジュエリー
260
235
235
255
240
270
260
930
1,430
1
その他
140
115
110
60
65
90
140
290
485
140
需要計
7,580
8,600
9,370
8,960
6,760
4,840
5,430
6,560
7,355
6,635











在庫移動
(330)
(200)
(1,310)
(1,160)
560
410
1,020
2,020
1,050
1,425











平均価格
(トロイオンス:ドル)
178
284
358
681
603
337
201
230
201
320

プラチナ1,200〜1,400ドル、バラジウム320〜420ドル
ーJMの向こう6カ月予想レンジ―
 プラチナの需要は07年も増え、10年連続の増加となろう。自動用触媒需要用途が特に欧州の小型ディーゼル車用中心に増える。アジアの自動車増産もプラチナ需要の増加に寄与しよう。ジュエリー部門の需要見通しは不透明だが、価格の安定度が増せば地金調達量の増加も見込める。
 07年プラチナの供給もまた増える。ただ、ロシアの輸出は数ヵ月の中断が予想されるため、年前半は需給が比較的タイトとなろう。南ア鉱山の生産能力拡張が進むうえ、ロンミン鉱山による鉱石在庫の精錬が寄与し、年後半には流通畳も増える。07年を通じ、鉱山の増産が計画通り進めばプラチナの供給余剰幅は拡大しよう。
 バラジウム需要は06年は滅ったが、07年は増加基調に戻ろう。自動車触媒用途が増える。すべてではないが、ガソリン車用触媒でプラチナからの転換が進む。ジュエリー部門はプラチナ同様、トレンド予測がむづかしい。だが、現状からみると、中国のジュエリー加工業者が控え目ながらバラジウム地金の調達量を増やしそうだ。エレクトロニクス部門は 100万トロイオンスを超える調達が見込める。
 バラジウムの南アからの供給はほぽプラチナ増産テンポを同じくし、増えていこうごロシアの鉱山生産はやや減る見通しだが、政府備蓄からの売却(06年12月にスイスに積み出された分を含む)は再度膨む。ロシア供給の正確な予測はできないが、06年を上回るだろう。この結果、バラジウムは07年、7年連続の供給過剰となろう。
 向こう6ヵ月のJMの予想レンジは1トロイオンス当たりプラチナが1,200〜1,400ドル、バラジウムは320〜420ドル。
(JMのプラチナ族需給報告書「PLATINUM2007」の展望部分要旨)

 (週刊 先物ジャーナル 07年5月28日 第 891 掲載)