第 216回

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米良 周              
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

 小粒現物商品プラチナの証券化に疑義
 「白金(1g)の先物価格が、5000円を越える。期近・期先とも上場来高値更新」(東京工業品取引所=TOCOM4月23日のプレスリリース)
 「白金の受渡値段が上場来最高の5007円を記録」(同、24日)
 白金ことプラチナ。金をベースにして白色金属メッキで白色に仕上げたホワイト・ゴールドは日本語に訳すると白金。上場当時、プラチナの販促機関プラチナ・ギルドがTOCOMに白金ではなくプラチナと表示してほしいと申し入れたが、断られたと聞いたことがある。地金商はかねて金をヤキ、白金をピー(P)と呼び分けている。白金にアクセントを置くと金に間違えかねないからだという。
 そのプラチナの急騰はスイスの銀行チューリヒ・セントラル・バンク(ZKB)が4月18日、5月10日からプラチナ、パラジウム、銀のETF(上場投資信託)を上場すると発表し、ETFセキュリティーズも同様の計画を今週中に明らかにするためだ。
 06年11月21日、プラチナが1395ドル(ロンドンの手前)の史上最高値を付けたが、その高騰もETF話だった。
 「小さな市場でまとまった現物確保、隔離は非常識」という正論を前にETF話はうわさの段階で消えた経緯がある。
 英誌ファイナンシャル・タイムス(ET、26日付)には「プラチナのETF登場はジュエリー愛好家にとっては悪いニュース」という見出しの記事が載っている。
 「英国のコンサルタント会社、GFMSのシニア・コンサルタント、ピーター・ライアン氏によると、ETFは窮迫状態にあるプラチナ市場に25万トロイオンス以上の需要創設効果をもたらす。プラチナETFが人気化すれば今年中にも1トロイオンス1450ドルを上回とライアン氏は予想する」
 「パラジウムETFのインパクトはニッケルとパラジウムの大手生産者、ロシアのノリルスク・ニッケルの在庫売却が着実に増えているため滅殺される。」
 「プラチナETFはジュエリー加工需要の大幅減退を招く(自動車触媒用は価格弾性値は小さい)として生産者は懸念するが、パラジウムは過剰在庫が一掃されるとして歓迎している」
 ここまで書いたところ(26日3時半)に国際宅急便でGFMSの需要報告書「プラチナ&パラジウム・サーベイ・2007」が到着した。とりあえず、世界のプラチナ需給の表だけ掲載する(報告書の中味は5月14日号で紹介する予定)。
■ 世界のプラチナ需要(GFMS調べ、1000トロイオンス)
 
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
供 給        
鉱山供給         
南アフリカ
3,898
3,765
4,167
4,167
4,756
4,961
5,084
5,445
ロシア
860
872
811
816
834
840
960
961
北米
270
285
347
389
281
374
358
357
その他
153
95
62
122
186
218
233
243
鉱山供給合計
5,180
5,016
5,387
5,768
6,057
6,393
6,635
7,006
自動車触媒回収
520
580
580
699
735
770
801
855
供給計
5,701
5,596
5,596
6,467
6,792
7,163
7,437
7,861
需 要        
自動車触媒
1,838
2,148
2,148
2,954
3,291
3,588
3,910
4,166
ジュエリー
2,773
2,741
2,741
2,961
2,688
2,172
1,842
1,700
化学
325
305
305
335
335
375
355
350
エレクトロニクス
380
440
440
320
335
345
375
434
ガラス
255
370
370
235
315
490
475
450
石油精製
115
120
120
135
136
165
165
180
その他産業
530
337
337
580
530
480
457
435
需要計
6,216
6,461
6,461
7,520
7,630
7,615
7,579
7,715
 
        
グロス過剰/(不足)
(515)
(864)
(981)
(1,052)
(838)
(452)
(142)
145
推定在庫移動
12
262
213
434
266
165
13
0
差し引き過剰/(不足)
(503)
(602)
(768)
(619)
(572)
(287)
(130)
145
プラチナ価格
(ロンドン午後の値決め平均
376.86
543.84
528.78
539.93
691.19
845.52
896.57
1,142.55
(1トロイオンス・ドル)

◆     ◆     ◆     ◆
 プラチナETFのプラチナ相場へのインパクトの大きさはGFMSの需給表の用途別需要の数値をみてもらえば一目瞭然。
 ここで現物商品の証券化の是非について考えてみる。
 証券化は是か否か。
 =商品が株式や債券など主流のアセットの分散、ヘッジのアセットとして認知され始めた以上、最もコストが安く、手軽に投資できる商品ETFは歓迎すべきだ。
 株、債券からの分散投資の対象として、先発の金、銀ETFは着実にその地位を固めている。
 =プラチナ、パラジウムのような小粒商品ではインパクトが大き過ぎる。供給過剰のパラジウムでは下支え役に働き、安定操業に利するが、プラチナのように7年にわたり需要超過が続き市場在庫も薄くなっている需給環境下ではETFによる需要創設が需要を冷やす(特にジュエリー)。自動車触媒用途、ガラス、化学、石油など産業用需要分野ではその特性が買われて需要は落ち込みにくいが、いずれ製品価格に値上がり分が転嫁されていく。
 =商品ETFは証券発行の裏付けとして、一定の現物が市場から分離保管されるため、値上がりに結び付くが、高値が供給増、需要減を呼ぶとみればETFは売却され、現物が市場に環流する。時間の経過とともに中立材料となる。現物商品の証券化は商品投資にとって利便性の高いものだ。
 =「証券化は、単に資金調達の方法を拡大しただけではない。債券や不動産、さらには事業そのものが証券化されることで経済がリアルな世界から切り離され、ただの数学の交換が行われるだけで現実を動かす、バーチャルな金融市場を生み出した」(「世界金融経済の『支配者』その七つの謎」東谷暁著、祥伝社新書)
 現物(リアル)商品のヘッジと価格発見機能が一時的にせよ毀損する。先物市場の運営者には行き過ぎた投機を管理する市場管理能力が求められる。証券化されたEFTが利便性ゆえそうした制約がないのはおかしい。
 筆者は"非"の立場だ。総合取引所構想へも、まず証券化ありき、だとしたら非の旗を立てる。
◆     ◆     ◆     ◆
「ブッシュ米大統領のエタノール熱は有害。食糧を燃料に転用する邪悪な試みである」
 英誌エコノミスト(4月7日号)の「カストロは正しい」と題するキューバのカストロ大統領のブッシュ批判の一部を引用した記事への異論・反論が同誌(4月21日号)の投書欄に3本掲載されている。
●私はカストロとチャべス(ベネズエラ大統領)にベトナムとジンバブエの経済を研究することを勧める。ベトナムは集団農業制度を自由かつ開かれた市場に変えた結果、いまや世界第3のコメ輸出国である。ジンバブエの農業政策ベトナムと対照的。この結果、サブ・サハラン・アフリカのかっての穀倉はいま飢えに苦しんでいる。
 世界の飢餓はカネ持ちと貧乏人の争いではなく、21世紀のいまも生き残る中央計画統制農業政策の非効率の所産である。最近の研究によるとキューバの砂糖きび産業に再投資すれば年間 400万トンの砂糖と6億6000万ガロンのエタノールを5年内に産出することができ、年収は25億ドルが見込める。
●エタノール生産のためにトウモロコシ増産に傾斜する記事が多い。が、作物を燃料へ、という動きは目新しいものではない。エンジンが普及する以前、輸送手段の主要燃料は馬のえさであるオート麦だった。20世紀はじめ英国の穀物耕作地の半分はオート麦生産が占めていた。06年、その比率はちょうど4%。
●カストロ氏とエコノミスト誌が、もし食品の燃料化は罪だという合意に立つとしたら、ともに菜食主義者になる覚悟が必要だ。カロリー換算でみると、トウモロコシのエタノール化はトウモロコシの食肉化に比べればはるかに効率的である。
  まさに侃侃諤諤。いま日本の商品先物業界には侃侃諤諤の議論が望まれる。

 (週刊 先物ジャーナル 07年4月30日 第 888号 掲載)