第 213回

212回 214回
米良 周              
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

ICEのCBOT買収話で考える

《リスクマネーは世の中を活性化する。もちろん損をすることもあるが、デット(債券)よりエクイティ(株式)のほうがリスクの分だけ利回りは高い。われわれの祖先は立派にリスクをとって生きていたではないか。世界で初めて先物取引をはじめたのは大阪・堂島のコメ市場である。中世の人々は楽市楽座のようなマーケットをもち、武将達はまさに命がけでリスクをとった。
 日本人のDNAには、こういうリスクをとりに行く精神が組み込まれているのだ。日本人はリスクをとらない民族だ、などという俗説の歴史は、間接金融中心の護送船団方式が確立した以降のことにすぎない。》
 金融商品取引法(渡辺善美著、文春新書)の序章からの引用である。
 著者は金融改革のステップを次の三段階に分けている。
 ホップ=金融商品・サービスを包括的にとらえようとした最初の「ホップ」段階がスタートしたのは1998年。特別目的会社の設立を容易にし、担保不動産の流動化を図った法律、「SPC法」が成立したとき。2000年には「金融商品販売法」が成立している。金融商品販売法とは、金融商品を販売する業者が商品説明を怠慢や過失により十分に加えず、その結果として損害が出たときには販売業者に損害賠償の請求ができるというもので、施行は2001年4月。
 ステップ=2006年6月に成立、2007年夏頃施行の法律が第二段階である「ステップ」の「金融商品取引法」。「投資サービス法」と呼ばれていたこの法律は金融商品の横断化と規制の柔軟化をベースに考えられた。金融商品販売法もこの中に統括される。
 ジャンプ=仕上げである第三段階「ジャンプ」では金融商品の規制の範囲をさらに広げ、投資サービス法で見送った預金とか保険商品など、さらには従来金融商品とは考えられなかったような分野の先物、オプション、指数取引にまで網を広げていくことになる。
 突破力を買われて、06年末、行革担当大臣に指名された著者。ジャンプ局面に向けて、口も手も出してくることだろう。
 商品先物はヘッジと価格発見機能を持ち、金融商品とは別種のアセットクラスという反論もできよう。だが、個人投資家からみるとどうだろうか。金融商品のオルタナティブ(代替)投資対象ととらえ、金融商品並みの規制が必要という議論も成り立つ。
 規制は緩やかで結構だ、という経験もあれば知識もあるプロ投資家の層を厚くすることが、著者のいうジャンプ時期への備えとなるのではないだろうか。
《低金利時代の資産運用の一つとして、商品先物取引もそのイメージを新しくしているようだ。》
 週刊朝日(4月6日号)をめくっていたら、明治物産の記事が出ていた。購入後、道でばったり鈴木明夫社長とお会いした。
「あれ広告です。週刊朝日さんが商品先物のPRを開禁されたので─」
 ちょっといい話である。
◆     ◆     ◆     ◆
「取引所─未来をのぞく」─買収合戦、金融市場の儲かる一角に脚光
 英誌エコノミスト誌(3月24日号)にこんな見出しの記事が載っている。
「先物産業はその名にもかかわらず、株式市場に比べ多少遅れた存在とみられてきた。大男たちの大声に包まれた喧騒の場で原油や豚肉の将来の価格に賭けるといった印象を持たれていた。が、いまや"先物"はもっとぴったりした記述がふさわしい。何兆ドルという額が通常エレクトリニクス化された市場になだれを打ち、通貨の変動から天候のうつろいまでをヘッジする場。株式よりさらに多様で、創造的かつ儲かる、とあって世界の大投資家たちの関心を引き寄せている」
 書き出し部分である。記事を要約してみる。
 ・世界の先物取引所の中でも主要な一員であるシカゴ・ボード・オブ・トレード(CBOT)をめぐってシカゴ・マーカンタイル・エクスチェンジ(CME)が89億ドルで買収をはかれば、新進取引所でオールエレクトロニクロ化のインターコンチネンタル・エクスチェンジ(ICE)が99億ドルの買値を付け、CBOTの市場価格は上昇している。
 ・ICEはロンドンのインターナショナル・ペトロリアム・エクスチェンジとニューヨーク・ボード・オブ・トレードを手中に収め、石油、ガスからコーヒー、ココアに至る上場商品がそろい、株主はゴールドマン・サックスからBPに至る。先物専門のニューズレターを発行するジョン・ロシアン氏は「ICEの参入は巨大取引所の要塞作りより、取引所間の競争的環境を招くうえで望ましい」としICEに軍配を上げている(CMEとCBOTの合併ともなれば米国の先物取引に占めるシェアは85%に及び、反トラストの立場から規制当局も目を光らす)。
 ・合併の行方がどうなろうと先物取引には明らかにカネが埋まっている。ヘッジファンドを含む活発な投資家のおかげだ。彼らは複合的なマルチアセット(多重的資産)を考え出し、国境を越えた取引を進める。仮に特定の取引所でボタンを押すだけで取引できるなら、さらに好ましい。ニューヨーク株式取引所がユーロネクストとの合併を進めている理由のひとつはユーロネクストのLiffe市場を通じ、先物を手中に収めることにある。
 ・人気商品のおかげで先物取引所は参入の障害が高い。株式市場の新設は先物取引所に比べるとたやすい。新参組や地方取引所は大取引所から株式取引の一部を奪うことは可能だ。先物取引は最初に上場した取引所に商いが集中するのがつね。先物取引所が株式取引所より高値にあるのは強い競争が働かないためだ。
◆     ◆     ◆     ◆
 商い盛り上がらず、取引員の退場続く日本の商品先物市場。
 エコノミスト誌の先物賛歌の記事からどんなことがいえるか。
「ヘッジファンドを含む活発な投資家が先物取引所の価値増大に寄与している」というくだりからは商品ファンドをひとつの看板にして流動性を高めていく方向がある。
「プラチナとゴムぐらい。他の商品は海外市場の方が使い勝手がいい」
 商品ファンドの組成業者のことばだ。だが、「商品ファンド参入→建玉制限緩和→流動性増大→さらなるファンド資金の参入」の図式は米国先物市場のたどっていた道でもある。
「人気商品のおかげで先物取引所は参入障壁が高い」という文脈からは日本が情報を発信する人気商品を育てよ、という声が聞こえる。前記のプラチナ、ゴムは市場管理よろしきを得れば、さらなる流動性増大が見込める。中規模商品の小豆はどうか。
 生糸、鉄スクラップ、鶏卵、ブロイラー…。商いが極度に不振な商品も商品設計を再点検するなど出直しをはかる手だてはないものか。
「選択と集中」はいま企業社会のはやりことばだが、既存の商品を見直し、みがき上げる道もある。

 (週刊 先物ジャーナル 07年4月2日 第 884号 掲載)