第 203回

202回 204回
米良 周            
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

プラチナの売りはご用心
JMの需給報告書発表会で思う
  
「方向は間違っていないはずだ」
 14日、東京駅からジョンソンマッセイ(JM)社の11時からのプラチナ需給報告会出席のため帝国ホテルに向かう道すがら何度も立ち止まっては辺りを見回した。
 JMの報告会会場は毎年帝国ホテル。05年は紀宮様のご結婚披露宴と重なり、ホテルオークラに代わったため、丸の内に足を踏み入れるのは2年振り。
 路上喫煙には罰金という千代田区には近づくまいと決めているため、カタカナ名前の店舗が連なる丸の内界隈の変容振りを知らなかった。
 カタカナ名前の店が増えていれば、プラチナジュエリーの売れ行きも回復しているはず。発表会の席上配られた資料をめくるとあにはからんや、次の記述が目に入った。
「日本のジュエリーセクターは衰退の一途をたどっている。婚姻率は低下、個人消費品目の中にはジュエリー以外の選択肢もあり、1組当たりの結婚・婚約指輪の数も3つから2つに減っている。プラチナ価格の上昇だけでなく、こうした3つの動きによって、06年のプラチナジュエリー需要は12%減ろう」
◆ プラチナの需給 (JM調べ、単位トン)

2002
2003
2004
2005
2006


南ア
ロシア
北米
その他
138.4
30.5
12.1
4.7
144.0
32.6
9.2
7.0
155.8
26.3
12.0
7.8
159.0
27.7
11.4
8.7
168.9
27.8
11.4
9.6
供給合計
185.7
192.8
201.9
206.8
217.7


自動車触媒 グロス
      回収
化学
エレクトロニクス
ガラス
投資   スモール
     ラージ
ジュエリー加工
石油
その他
80.6
-17.6
10.1
9.8
7.3
1.4
1.1
87.7
4.0
16.8
101.7
-20.1
10.0
8.1
6.6
0.9
-0.5
78.1
3.7
14.6
108.6
-21.5
10.1
9.3
9.0
0.9
0.5
67.2
4.7
14.6
118.8
-23.9
10.1
11.2
11.2
0.9
-0.5
61.1
4.7
14.5
136.2
-25.8
10.7
13.2
10.1
0.9
-1.9
54.1
5.8
15.0
需要合計
在庫移動
201.2
-15.5
203.1
-10.3
203.4
-1.5
208.1
-1.3
218.3
-0.6
・06年のプラチナは600キロの需要超過
06年の需要は05年比5%増で過去最高。自動車触媒用需要の増加が主因。
一方供給も南アの増産で05年比5%増と過去最高。8年連続の需要増加。
・排ガス規制強化とディーゼル車の増産が需要拡大に寄与。
06年の自動車触媒用需要は15%増。欧州のディーゼル車は小型自動車販売台数の50%以上を占め、その多くでプラチナの触媒を利用した微粒子フィルターを装着している。北米でプラチナベースの触媒を装着したディーゼルトラックが増えている。
・値上がりと値動きの拡大がジュエリー加工需要を減らす。
ジュエリーメーカーの購入は11%減。プラチナ価格が高く、値動きが大きいためで、主要市場で小売企業が在庫を取り崩している。中国と日本で古い在庫のリサイクルが進んでいることも新規購入を減らす結果となっている。
・07年の需給は拡大均衡
南アの増産は07年も進むが、自動車触媒用需要の増加が、増産分のほとんどを吸収すると予想される。価格変動の影響を比較的うけにくい工業用需要は着実に増えよう。ジュエリー需要は引き続き価格動向の影響が大きい、
・向こう6ヵ月、980〜1200ドルで推移。
ファンドの積極的なコモディティー投資に牽引されて5月に1335ドルの史上最高値を付けたあと、10月には1100ドルを割り込んだ。投資家の関心が強くなり1200ドルを試す。需給と金、ドル、原油の動向からみて、ファンドの買い参入の余地はある。ファンド売りで下落すればジュエリー部門をはじめ需要が上向き、 980ドルを下回る可能性は小さい。

◆ パラジウムの需給 (JM調べ、単位トン)

2002
2003
2004
2005
2006


南ア
ロシア
北米
その他
67.2
60.0
30.8
5.3
72.2
91.7
29.1
7.6
77.1
149.3
32.2
8.3
81.0
143.7
28.2
8.7
88.8
136.0
29.7
9.3
供給合計
163.3
200.6
266.9
261.6
263.8


自動車触媒 グロス
      回収
化学
歯科
エレクトロニクス
ジュエリー加工
その他
94.9
-11.5
7.9
24.4
23.6
8.1
2.8
107.3
-12.7
8.2
25.7
28.0
7.8
4.3
117.9
-16.5
9.7
26.4
28.6
28.9
9.0
120.4
-19.6
10.1
25.3
30.0
44.5
15.1
128.8
-25.0
9.8
25.4
32.8
34.8
6.5
需要合計
在庫移動
150.2
13.1
168.6
32.0
204.0
62.9
225.8
35.8
213.1
50.7
・06年のパラジウムは50.7トンの供給超過
自動車触媒用需要が増得る一方、ジュエリー需要は落ち込み、需要合計は05年比6%減となろう。南ア、北米の増産がロシアからの売却弦を補い、供給は1%増、供給超過はファンドが吸収している。
・自動車触媒用、プラチナからの代替えも。
プラチナ価格を大幅に下回っているため、ガソリン車に装着される三元触媒に使われるプラチナのパラジウムへの代替が進んでいる。06年にはディーゼル車の排ガスの後処理に使われるパラジウムが大きく増えた。これらの傾向は07年にも引き継がれよう。
・ジュエリー需要は減少。
中国のジュエリーメーカーによるパラジウム購入は減少に転じた。04〜05年と流通ルート立ち上げのための供給で大幅に増えたが、06年は古いジュエリー在庫のリサイクルが活発だったためだ。リサイクルの減少で回復基調をみせよう。
・向こう6ヵ月、260〜380ドルで推移。
06年は大幅な供給過剰が予想されるが、投資ファンドが積極的に吸収している。需要に強い展望が働けばファンドはロングポジションを延長させ、再度高値を目指す。ファンドの支えがなくとも260ドルを下回る可能性は小さい。
 で、JMの「プラチナ06年中間需給調査報告書(Platinum 2006 Interim Review)」発表会。発表会には東京工業品取引所幹部の顔も見える。乱調子のプラチナ相場の先行きはいかに。05年末の金相場の急騰、急落といえ混乱を踏まえ再来を避ける手筈の参考にJMデータを読み解こうというのだろうか。
 プレスリリースの冒頭には「午後10時以降の発表をお願いします」とある。JM本社所在地ロンドンとの時差調整のためであろう。だが、報告会の説明ものかは、発表資料を打ち込んでどこやらに転送しているご仁がいる。米国の雇用統計などの発表は記者を一室に閉じ込め連絡手段を絶ち、情報発信の公平性を保つとどこかで読んだか聞いた記憶がある。
 民間企業とはいえ、プラチナ族に関して、精錬・加工・流通の最大手JMの需給報告書データは最も信頼性が高く、プラチナ族相場への影響力も大きい。情報の公平性確保は、情報伝達手段の発達によって進む一方で、エンバーゴ(発表時間の縛り)を楽々と無視できる時代にあることを実感した。
 JMの報告書の内容要旨は横書きで囲んでみたが、「プラチナの売りはご用心」という思いを強くした。
 報告会後の質疑応答。
「南アの金属法でロイヤリティ(鉱区使用料)が当初予定の売り上げの4%から3%に引き下げられることになったが、それにしても売り上げの3%は大きい。増産計画にひびが入らぬか」
「十分克服できる。マージン(利ザヤ)は数年前に比べ倍増している。でも長期的には懸念要因」
 報告者のジェレミー・S・クームズ(マーケティング部長)さんは言外に需給拡大商品の強さをにじませているように感じた。
 JMの報告書発表会はロンドン、ニューヨーク、ヨハネスブルグ、東京、モスクワ。
 需要大国の北京は加えないのか、という筆者の問いに、クームズさんは「メイビー、ネクストイヤー」。
 先進国に需要が傾斜した商品から世界商品へ。プラチナの需要の裾野拡大の象徴でもある。

◆     ◆     ◆     ◆
「縮む商品先物」
 朝日新聞(12日付)経済面は4段見出しで03年に比べ3割減の国内商品先物市場の縮小振りを伝えている。
 相場の急落と勧誘規制が個人投資家の離散を招いた、としている。
 05年5月施行の改正商品取引所法で顧客勧誘の規制が厳しくなり、投資家の新規参入が減った、という指摘には異論はない。
「05年12月の金相場の急落が個人の商品先物離れに追い打ちをかけた」という論点もうなずける。
 だが次の記述はどうか。
 先物取引で、個人投資家の大半は「買い」から入るが、商社や外資系金融機関などの機関投資家は下がると予測すれば「売り」も手がける。相場急落で売りは大きな利益を生んだ。商品先物に詳しい青野渉弁護士は「先物会社は、顧客をあおって買いばかり勧めていた」と批判する。
 記述への反論を書く。
 その(1) 1999年を基点とする(米国の大投資家ジム・ロジャース氏)か、02年
を基点とするかはさておき、金を含めた国際商品はスーパー・サイクルともいわれる循環買いの局面にある。東京金が05年12月半ばに急落(4日で15%)した。だが、06年の東京金は終始12月安値を上回り、5月高値は05年12月高値の20%高。顧客に相談されれば買い有利と答えるのはしごくまともだった。(金の販売機関、WGCのジェームス・バートン社長は15日「金の消費者(ジュエリー購入者)は05年前半には1トロイオンス 420〜 440ドルに順応していたが、06年第三4半期には 570〜 600ドルのレンジを許容している」と述べている=英紙ファイナンシャル・タイムス、15日付))
 金買い推奨の地合いはなお続いている。
 その(2) 証拠金取引の危険性開示は商品先物勧誘の必須条件。相場に高下はつきもの。高下ない商品は逆に上場適格性を欠く。どこで仕掛けるか、仕切るかは顧客の自己判断。
 その(3) 下がると予測すれば「売る」は一般顧客も同様、夏場の国際商品調整安局面で、商品取引員の個別商品判断リポートには「売り有利」が並んでいた。
 05年12月中旬商社玉の多くは売り建て。東京主導の上昇で海外に比べ割高だったのをみて、東京売り、海外買いを仕掛けた。この裁定取引の範囲を越えた建玉は純粋投機で急反落前の局面では巨額の含み損を抱えていたはずだ。
 天然ガスの大量買い建てで破綻した米国のヘッジファンド。機関投資は売りも手がけるが、ヘッジファンドの多くは05〜06年と買いに傾斜してきた。
 (JMのプラチナ需給報告書にも「パラジウムはファンドが供給過剰分を吸収している」という記述がある)
 きりがないのでここでやめる。
「顧客をあおって買いばかり勧めてきた」は過去形のはず。その負の遺産が「商品先物」の記事にいつまでついて回るのだろうか。
  

     (週刊 先物ジャーナル 第867号 掲載)