第 198回

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米良 周            
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

金、年末700ドル説(GFMS予測)を点検する
  
「金は14日、英国のコンサルティング会社、GFMSが年末にかけ1トロイオンス700ドル突破ありうべし、との予測を公表したにもかかわらず、前日比0.7%安の585ドルとなった」(英紙ファイナンシャル・タイムス=FT、15日付の商品欄の記事)
 GFMSの最新金需給報告書「Gold Survey 2006 ― Update 1」が国際宅急便で15日夕刻会社に届く。16日、二度寝の間を縫って読了。
「最近の高値に向けての再挑戦の足取りがおぼつかないのをみて、01年はじめを起点とした上昇波動に終止符が打たれたとの見方も一部に浮上している。きたる数週内に調整局面が到来する可能性はある。だが、それは5〜6月の激しい調整に比べてはるかにささやかなものとなろう。既に06年の底値は形成済みで、600ドルへの逆戻り、あるいは600ドルを割り込むことがあっても短期にとどまる」
 報告書の第2章「06年の金価格」の価格見通し部分の書き出しだ。
 第1章の頭に「この報告書を執筆している時点で、金市場は4〜6月の劇的な高下、底固めの夏場を経て再び活気を取り戻しているようにみえる」という記述がある。
 時に予測記事を書くことのある筆者の体験からいえば、大勢観は変えにくいうえ、執筆時点の相場付きに強弱のトーンが左右されやすいものだ。
 GFMS社予測に無反応だったのも、強い基調を取り戻しつつあった時点での執筆と市場が割り引いて解釈したせいだろう。
「年末までに700ドルを超え、年後半の平均は655ドルとなろう。この予測は長期的な平均実質値である523ドル(1968〜05年を05年を基準にインフレ率で調整)に比べるとやや根拠を欠くようにみえるかもしれないが、一方でインフレ率で調整した1980年平均値1,456ドルに比べるとはるか低位にある」
 9月第3週の金急落を踏まえると強気に過ぎるようにみえる予測の根拠を報告書から抜出してみる。
○短期的には押さえつけられている需要と供給圧力の不在が下落を短期にとどめる。
○中期的には投資需要は再び強まる。米国の貿易赤字を中心とした世界マクロ経済の不均衛はいつまでも放置することはできない。米国の住宅に関するネガティブなニュースが伝わるなど、そうした調整局面が接近しつつある可能性を否定できない。米ドル、米金利と景気の下降につながり、金相場は引き締まる。
○投資手段の多様化、投資対象としての見直しも金への資金流入をうながす。地政学的緊張の高まり(多分イランに関連して)も投資需要を刺激する。
○中期的な上昇はありうるとしても、多年にわたる上昇の終末を告げる条件が整い始めたという見方もある。(1)長期的な上昇の果ての06年前半の加速は大きな調整安を呼ぶ(2)世界経済の失速は商品全般の下落につながり、金にも弱気が伝播する(3)ジュエリー加工需要の弱さはいつまでも放置することはできない、などだ。
○だが、現物需要は安値で安定した価格ゾーンでは再び増え、投資主導の上昇局面到来までの下支えを果たす。供給は中立要因。06年後半の公的金売却減予想は新産金と回収金の増加を相殺する。ただ、ヘッジ売りの買い戻しは年後半減る(年前半はバリックによるプレーサードームの買収でプレーサードーム分のヘッジが解消された)。
■ 世界の金需給(GFMS社調べ、単位:トン)
   
05年
06年
推定
05年比
05年
前半
05年
後半
06年
前半推定
05年
前半比
06年
後半推定
05年
後半比


新産金
2,522
2,524
0.1%
1,186
1,336
1,168
-1.5%
1,356
1.5%
公的金売却
661
382
-42.2%
412
249
167
-59.6%
215
13.5%
回収金
正味生産者ヘッジ
推定投資家売却
供給計
888
-
-
4,070
1,112
-
-
4,017
25.2%
n/a
n/a
-1.3%
402
-
38
2,038
486
7
-
2,078
602
-
-
1,936
49.7%
n/a
n/a
-5.0%
510
-
-
2,081
4.9%
n/a
n/a
0.2%


加工
 
 
 
 




 
ジュエリー
2,709
2,205
-18.6%
1,481
1,228
1,069
-27.9%
1,136
-7.4%
その他
576
612
6.3%
298
278
321
8.1%
291
4.5%
加工計
3,284
2,817
-14.2%
1,779
1,506
1,390
-21.8%
1,427
-5.2%
地金退蔵
263
185
-29.4%
166
97
86
-48.0%
99
2.5%
正味ヘッジ買い戻し
85
378
340.7%
93
-
295
217.3%
83
n/a
推定投資家購入
437
637
45.6%
-
475
165
n/a
472
-0.7%
需給計
4,070
4,017
-1.3%
2,038
2,078
1,936
-5.0%
2,081
0.2%
価 格
(ロンドン午後の値決め
1トロイオンス・ドル)
444.45
622.50
40.1%
427.37
461.25
590.00
38.1%
655.00
42.0%

◆     ◆     ◆     ◆
 GFMSの年末700ドル予測は強気に過ぎるのだろうか。
 今回の商品下落の背景について、FT(15日付)は商品欄で次のように解説している。
「原油(ブレント)は8月高値から9月第3週の安値まで21%下がったが、こうした下落幅は石油市場でのピークからの下降時に共通するパターンだ。05年8月のハリケーン・カトリーナ時の高値から11月半ばの安値までの下落は21%余、04年11月には1カ月で19%余下がっている。世界最大の消費国である米国の需要シーズンのピークが過ぎたのと軌を一にしている」
「商品相場の行方は需給ファンダメンタルスではなく、投資家が商品セクターから資金を引き揚げるかどうかにかかる。あるヘッジファンドのマネジャーは『火曜(12日)に原油が2ドル幅で下がったほか、全商品が下落する風景は20年以上のトレード体験の中ではじめてのことだ』と指摘している。12日はゴールドマン・サックス商品指数に沿って資金を運用しているファンドが期近から次の限月に乗り換える(ロール・オーバー)に当たった。『ロール・オーバーを渋る資金が多かったのではないか。ファンド資金の流出が続くとしたらさらなる商品下落が予想される』とヘッジファンドのマネジャーは述べている」
 英誌エコノミスト(9月16日号)には「石油下落が商品投資のわなを浮き彫り」と題する記事がある(グラフ参照)。
「原油下落は(1)ガソリン需要のピークアウト、灯油の冬期需要前である米国の季節要因(2)大西洋のハリケーン・シーズンもこれまで予想されたほど激しいものではない(3)米国とイランの対立もいまのところ激化していない、などによる」
 こうした下落の直接引き金役のほか、記事では商品への投資を見直す動きがあると指摘している。
「石油や他の商品の値動きを追うファンドのパフォーマンスが悪くなっている。特にインデックス・ファンド(代表的な商品指数をベースに投資する)は商品自体の値上がりのほか、ロール・オーバー益を得てきた。だが期近高・期先安の逆ザヤから期近安・期先安の順ザヤへの転換でロール・オーバーで損、商品自体の値下がりで損失と二重損状態にある」
「資産の分散効果という商品投資への根拠も弱まっている。従来原油と金は株式と逆相関関係にあり、株下落へのヘッジの役割を果たしてきた。だが、キャピタル・エコノミックスのサイモン・ヘイレー氏によると、この数ヵ月、商品と株式は同調して動いている。投資家の商品への関心が薄れれば、需給はどうあれ、商品相場は下がる」
 FT、エコノミストの記事に共通するのはファンド資金の流出が商品下落の一要因という指摘だ。
 だが、「商品相場は需給関係が基本で、上限と下限にある程度のメドがつく」(商品情報会社、O社のKさん)。
 で、金。公的金売却の減少、新産金では加工需要が賄えないというその需給図から、安全資産としての受け皿需要(投資)がいつ盛り返しても不思議ではない。
「3割高下は気の変化」という。
 732ドル(5月12日)、546.4ドル(6月14日)、677.5ドル(7月17日)、ニューヨーク金期近の足取りだが、9〜10月に二番底を付けてダブルボトム形成。気も変化する。 
 暖房需要とOPEC減産で持ち直す原油とともに金は年末高を目ざす。GFMS予測を支持したい。
◆     ◆     ◆     ◆
 前記のKさんに商品先物の魅力をまとめてもらった。
「需給関係が基本」を含め次の点を指摘している。
 (1)資金効率が高く、勝負が早い。
 (2)価格変動要因(材料)に関する情報が一般の人でも入手しやすい
  (わかりやすい)
 (3)市場内部要因の分析が可能。
 (4)季節変動要因がある。
 (5)売りから入ることができる。
 (6)サヤ取りができる。

     (週刊 先物ジャーナル 第859号 掲載)