「輝きを増しているのは金だけではない。2月5日、金は1トロイオンス 385ドルと1996年9月末の高値に達したが、プラチナ(白金)は2月4日、 700ドルと23年ぶりの高値となり、02年末比で17%上昇した。プラチナの高値はなにに起因するのだろうか」
英誌エコノミスト(03年2月8日号)の「プラチナに賭ける」と題する囲み記事の書き出しである。
「金にとっては戦争の話題(イラク戦争)が強材料となっているが、プラチナにはもっと地に足のついた強材料がある」
エコノミスト誌が指摘するプラチナの強材料は次の3点。
@南アに次ぐ供給2番手のロシアがほとんど供給をストップした。スト減産に備えての在庫積み増し説のほか、ヨハネスブルグではロシアの策略説も聞かれる。
2年前に比べ4分の1値の 260ドル前後まで落ち込んだパラジウムのテコ入れを
目ざしているのではないかという見方だ。プラチナの供給を止めれば、その代替需要が入るからだ(パラジウムではロシアが供給トップ)。
A米ブッシュ大統領が燃料電池車の開発に力を入れるよう求めている。クリーンエネルギーである燃料電池の触媒にはプラチナが使われるため、この用途の拡大が見込まれる。
B02年に南アランドは対米ドルで40%上昇した。03年に入っても3%上昇している。輸出収入のうち金、プラチナがそれぞれ13%占め(02年上半期)、その値上がり自体がランドの上昇要因だが、ランド高は手取り米ドルの減価を通じて南ア鉱山の増産意欲をそぐ。
3年半前の記事を紹介したのは当時指摘された強材料がどうなったかを点検してみるためだ。
まず、ロシアの供給。ロシア政策は05年6月、プラチナ族供給最大手のノリルスクの情報公開を認め、同社は9月年間生産量をプラチナ22トン、パラジウム93トンと公表した。ロシアの策略の余地は小さくなったといえよう。
燃料電池車への期待もしぼんだ。05年10月に世界の自動車メーカーは燃料電池車への切り替え時期を先延ばしし、当面はハイブリット車中心で進むと報じられた。石油メジャーのつき上げ、あるいはプラチナの先行き供給不安によるとの説があるが、いずれにしても有力需要源が当面消えた。
トレンドとしての資源通貨人気は続いているが、南アランドの一本調子の上昇は一服状態にある。
3年半前の強材料はそろって消えたにもかかわらず、プラチナは06年貴金属中唯一、史上最高値を更新している(従来の高値1085ドル=1980年3月、06年の高値
1347ドル=5月)。
なぜか。需要の漸増傾向が途切れない一方、供給不安定(ロシア中心)で、需要超過が1999年以降05年まで7年続き、06年も需要超過が見込まれるためだ。
英国のプラチナ族加工・流通大手のジョンソン・マッセイ(JM)社の需給データをベースに需要を点検してみよう。
需要は10年で倍増の足取り
プラチナは10年ごとに需要が倍増する歴史を刻んできた(世界のプラチナ需要の図参照)。1950〜60年の石油製油所増設に伴う改質触媒用途の拡大、60〜70年の日本が主導したプラチナ・ジュエリー人気、70〜79年は自動車触媒用途の急拡大といった具合である。
需要規模が大きくなるにつれ、10年倍増というペースは崩れていくが、79〜87年の日本の地金投資(特に金相場を下回ると割安とみた日本の投資需要が急増した)、90年台半ば以降、02年に至るジュエリー加工部門での中国の急成長、01年以降の欧州ディーゼル車人気とそれに伴う触媒用途の着実な増加…。主役が交代しながら需要拡大の歩みは止まることがない。
で、足元の需要はどうか。高値は需要を減らす。この原則が働いているのはジュエリー加工部門である。
日中のジュエリー加工需要の推移をみよう。日本のジュエリー加工部門に占める割合は90年代央まで世界の8割を占めていた。そこへ中国の急浮上である。90年代半ばまでのほぼゼロの状態から、都市部の所得向上に伴って若い女性中心にプラチナ・ジュエリー人気が広がっていった。00年に日本からジュエリー加工需要トップの座を奪っているなど、02年までほぼ一本調子で伸長したのである。
03〜05年のプラチナの値上がり過程でその中国の需要は急低下する。割安なパラジウム、さらにホワイト・ゴールド(金を白色金属でメッキ)への需要移行である。高値が中国のプラチナ・ジュエリー需要に水を差したといえる。
このマイナスを補ったのは自動車触媒需要の増加だ。05年、自動車触媒需要は過去最高を記録している。欧州市場での排気ガス規制強化に伴って、軽ディーゼル車への触媒フィルターの搭載が進んだことが主因だ。環境規制強化への対応素材としてプラチナの自動車触媒用途は高値でも増勢は止まらない。
「プラチナは融点が極めて高いなど優れた特性を持つ奇跡の貴金属といえる。自動車の排ガス用触媒のほか、スペースシャトルの発電装置、ガン治療など将来に向け社会・文明に寄与する」(1985年10月、英領マン島の法定プラチナコイン、ノーブルの日本発表の説明リーフレット)
プラチナにはハイテク素材の側面がある。産業用需要も高値にもかかわらず05年は9%増と過去最高を記録している。アジアでの液晶ガラス生産能力の拡大に伴うガラス製造分野の需要増加とエレクトロニクス分野でハード・ディスクに使用するプラチナが伸びた。南ア増産にコスト上昇の壁 高値は増産を促すというシナリオはどうか。
供給2番手のロシアのプラチナ族生産はパラジウム主力。そのパラジウムは供給超過、プラチナの増産は併産されるパラジウムのさらなる供給過剰につながる。増産に動きにくい。
南アは需要拡大を見据え、計画的増産計画を進めているが、ランド高による収益低下、操業トラブルの続出などで計画はずれ込んでいる。
鉱山憲章も先行き増産への阻害要因となる。
南アは黒人の地位向上を目的とする鉱山憲章を02年10月に発表した。その柱は@既存鉱山に向こう10年で26%の黒人経営参加を求める、A新規の鉱山開発は黒人の経営権51%以上に限り認める、B07年を目標に鉱区使用料を金3%、プラチナ4%、ダイヤモンド7%(売り上げに対し)を課す、の3本。
鉱山開発、経営のノウハウが備わった白人から、そうした経験の乏しい黒人の参与度合いが高まることは中長期的には経営効率の低下につながる。鉱区使用料が課せられることはコストの圧迫要因となる。
金鉱山はこうした縛りを避けるため、カナダ、オーストラリアなどへ逃避先を求め始めているが、プラチナ鉱床が南アに集中しているプラチナ鉱山は南アにとどまる以外ない。
「黒人政権による資源ナショナリズム、1960年代の銅の経験(ザンビアの銅生産急低下)を想起させる」(貴金属評論家の園田征次氏)

有望鉱床が眠るジンバブエ。そこでは南アプラチナ資本が開発計画を進めているが、ジンバブエ政府は外国企業に株式の51%を政府に移すよう求めている(06年3月)。資源ナショナリズムという世界的な潮流にプラチナも洗われ始めている。