「需給ファンダメンタルズからみると現行の高値(4月11日に1980年12月以来の1トロイオンス600ドル台乗せ)は持続性を欠く。この高値が続けばジュエリー加工需要は05年に比ベ20〜30%落ちょう。一方、高値は回収金の増加を呼び、新産金も06年は増え、07年には約2700トンと過去最高が見込まれる」
4月12日、ロンドンで開かれたメタル調査会社GFMSの最新需給報告書発表会でのフィリップ・クラップウィジク会長の発言だ(英紙ファイナンシャル・タイムス、4月13日付)
高値は需要を冷やし、供給増を呼び込む。需給ファンダメンタルズ面の支えを欠きつつあるのになにゆえの高値か。
「05年、金の正味投資需要は110億ドルに達したが、他の投資市場に比べるとささやかな規模。イランと米国の関係がさらに悪化すれば金市場に400億ドルが流入することをだれが否定できよう。そうなれば1980年底値(1トロイオンス850ドル、ロンドン)が再現する」。
GFMS社会長のコメントだ。
田中貴金属工業が定額購入客に配布しているリーフレット「パトウ」の06年春号(4月)。
「金の上昇の流れは、今後少なくとも5年間は続くとみられ、これから5年間という区切りの中で、史上最高値更新も十分ありうるという見方が出ている」
取材協力・ワールドゴールドカウンシルと注記のある金相場の解鋭記事。慎重な言い回しだが史上最高値更新の語句が出ている。
記事は500ドル台突入を踏まえてのもので、「1980年高値は約半年で4倍近く急騰したいわばX字型だったのに比べ、今回は1999年を起点とした6年間の上昇気流が続き、級やかなカーブ」と指摘している。
持続的な上昇相場を演出している要因について記事は次の3点をあげている。
@米国の双子の赤字を背景に、ドルに対する不安から金にシフトする動きが根強い。
A中国の急成長。もともと資産を金で持つ国民性があり、最近では段階的に金取引の自由化が進行している。
B欧米の年金基金が金の投資に乗り出している。
1999年、CBGA発足で反転
ここで世界の金需給の流れを振り返ってみる。
金は1980年1月の史上最高値を大天井として80年代、90年代と多少の起伏をみせながら下降線を描いてきた。
悪役は2者。欧州の中央銀行の保有金減らしと鉱山会社のヘッジの先売りだ。
「愚か者の金」。英誌エコノミストは93年1月23日号の社説でこんなタイトルの社説を乗せている。
「金相場を支えていたのは、いってみれば中央銀行の金保有カルテル。中央銀行の一部が売却に踏み出した以上、カルテルはついえた。金は売るほかない」
強力な売り勧告である。
いわば底積みの準備資産である金。金利も生まなければ配当も付かない。金・外貨準備に占める金の比率が高い欧州の中央銀行中心に金売却が進んでいく。
一部中央銀行は保有金を金のリース(貸し借り)市場に貸し出し、貸し出し料を獲得する動きに出る。借り手の主力は金鉱山。先行きの値下がりに備えて、借りた金を売却して現金を確保するいわゆるヘッジの先売りだ。将来の産金が前倒しの形で市場に出回っていく。中央均衡の保有金がヘッジ売りを通じて仮供給の増加につながった。
保有金売却は金の下落要因となり、準備資産の目減りを呼ぶ。かくてはならじ。1999年9月末、欧州の中央銀行はワシントンで保有金の売却決定を向こう5年年間400トンとし、同時に金リース市場への貸し出しを抑制することで合意した(中央銀行協定=CBGA)。現在、年間売却限度を500トンとする新5年協定下にある。
1999年の協定発足で保有金売却に歯止めがかかる一方、ヘッジの先売りの巻き戻しが生じていく。金相場への中央銀行売却という重しが外れ、先高観が台頭するとともにヘッジの先売りは収益圧迫要因に転じる。ヘッジの先売りを買い戻しを通じて解消していく動きだ。ヘッジ売りという仮供給が買い戻しを通じて仮需要に転じたわけだ。特に02〜04年の金上昇にはこの仮需要が多分に寄与している。
田中貴金属工業が金上昇の解説記事で今回の上昇相場の起点を1999年としているのはワシントン合意を受けた秋の急上昇を念頭に置いたものだろう。
世界の金需給の衷をみていただく。
加工需要に地金退蔵投資を加えた数値から回収金を差し引いた数量をGFMSは正味現物需要と呼んでいる。金相場を底辺部分で支える土台役だ。相場の低位安定周の1997〜2001年は3000トン台(1998年はアジアの金融危機で韓国、タイなどで回収金が急増した分、正味現物需要は落ちている)。
金がはっきりと上昇局面に入った02年以降、正味現物需要は3000トン以下で推移している。だが、年平均が3300ドル台から400ドル台へと上がった04〜05年は持ち直している。実需が高値に慣れてきたといえよう。
土台が安定した結果、欧米の投資需要のインパクトが強まっているともいえる。
世界不安係数は高い
その投資需要どんな尺度まで金市場に出入りするのか。
米国の投資銀行、ゴールドマン・サックスの貴金属部門はかねて世界不安係数の高下によるとし、係数の中味を@国際政治情勢Aドルの価値B世界インフレの動向―の三要素に分けている。
核開発問題をめぐるイラクと西側の対立、双子の赤字を抱えた米ドルの下落懸念、原油高に誘発された世界インフレ懸念。不安係数は高まる方向にある。
GFMSの報告書は金の値動き自体が投資資金を呼び込んでいると指摘している。
「05年の上昇は1990年代を覆っていた弱気を払拭した。過去4年で2倍値に達したとはいえ、上値の余地はまだあるという見方を広げている。押し目はすぐに買われるという過去数ヵ月の動きもこうした見方を裏付けている」
金投資手段の多様化も投資需要増を後押しする。従来の現物、先物、オプション、店頭市場に加え、金のETF(上場投資信託が米国中心に人気を集めている。インデックス投資(商品指数の構成品目をウエートに沿って先物市場で買い建て、決済期限がくれば、次の限月に乗り換える)も膨らんでいる。
GFMSの最新金需給報告書には「商品への投資」と題する特別記事がある。
「エネルギーの高鎗、地政学的不安、途上爵の原材料消費の高まりなど国際商品は強い環境下にある。伝統的投資市場(株式、債券)の訴求カの低下も商品への関心を高めている」
報告書は@06年1月、英国最大の年金基金(BT)が304億ポンドのうち3%をインデックス投資で商品に投じると表明A英国の小売菜者、J・セインスベリー年金が今年後半、38億ポンドの資産のうち5%を商品に投じると発表した、などの例を引き、従来の短期投機資金に加え長期的な視点からの商品への資金流入を新傾向として紹介している。

記事には13商品の先物市場での非商業(投資・投機)の年末時点(05年実質値)での買い建て額の推移をみたグラフが出ている。02年以降、拡大に次ぐ拡大。
「06年2月末では05年末に比べ12%増えているが、例えば06年2月末のコカコーラの時価総額1000億ドル、05年の米10年債の発行高800億ドルなどに比ベると小さな規模にとどまっている」と開設している。
底堅い需給ファンダメンタルズ、拡大する投資需要。史上最高値更新は通過点に過ぎない、という強気の論理が大手を振る市場人気と評することができよう。
だが、銀の急反落に同調安(4月21・24日)、史上最高値に追随しての反発(同25日)と金は他律的な高下をみせている。
500ドル突破、600ドル台乗せのX字型上昇に警戒信号がともったせいであろうか。
中央銀行の保有金、私的保有金、金ジュエリーなどの形でのいわゆる金の地上在庫が15万5500トン(GFMS推定、05年末)。05年供給合計の38年半分。
1980年高値は民間保有分の換金の世界的波がこわした。相場の流れが変われば、地上在庫は大きな重しになる。金準備比率の高い欧州の中央銀行協定は協定という歯止めがなければ、いつなだれを打つ売却に転じないとも限らない。
05年の世界の産金トータルコストは加重平均で337ドル。儲かる金。新規開発意欲をかき立てるに十分な高値、中小鉱山にはヘッジの先売り再開の動きもある。
正味現物需要という土台をこわしかねないX字型上昇こそ史上最高値更新への道をはばむものとなる。
二進一退、押し目買いが金にはふさわしい。