第 179回
178回 180回
米良 周            
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

彼岸底も生きている?
 節分天井、彼岸底。なぜか知らねどこの市況格言は生きている。
 2月13日付の当欄で「節分天井は生きている?」と題して、原油、非鉄金属、貴金属が節分(2月3日)を前後して目先の天井を打ったさまを書いてみた。
 3月第3週、国際商品は彼岸(18日)底を思わせる相場付きをみせた。
 国際商品の牽引者格の原油相場。2月15日の1バレル57・55ドル(WTT期近)を目先の底に再び60ドル台を固める動きをみせている。
 原油相場は?OPEC(石油輸出国機構)が需要端境期(暖房油需要減、ガソリン需要期いまだし)にもかかわらず、生産枠を据え置いた?米国の原油在庫が高水準にある?地政学リスクを当面織り込んだ、などを理由に節分天井を形成後、60ドルをはさんでのもみ合いに転じていた。
 なぜ強気が戻ってきたのか。英国の大寒波で天然ガス相場が一時急騰したこともあろう。イランの核問題をめぐっての西側による経済制裁機運の高まりもある。
■ OPECの価格目標(1バレル:ドル)
・1960-72
暗 示
1〜3
・1973-80
暗 示
5〜11
・1980-85
暗 示
30
・1986-90
明 示
18
・1991-99
明 示
21
・2000-05
価格帯
22−28
・2006年の
 新価格帯
(WTI基準)
50ドル後半〜
60ドル前半?
 OPECの生産余力の低下と地政学リスクの高まり、それに強い需要基調に基本的には変化はない点が見直されたのではなかろうか。
 英紙ファイナンシャル・タイムス(FT、3月15日付)に「OPEC、石油価格維持策を検討」と題する記事が出ている。
 記事にはOPECの価格目標の推移を示す表が出ている。
 新たな価格目標帯はOPECのエドモンド・ダウコル議長の14日の次のコメントに基づく。「(米国の先物指標価格)で、50ドル後半から60ドル前半の範囲が望ましい。大幅下落、大幅高には直ちに会議を開いて対応することも決まっている」
「原油相場は5年で2倍値になったが、この間22?28ドルの価格目標は無視され、05年はじめには放棄された。OPECは高きに過ぎる原油は米国、EU、アジアなど消費国の景気後退を招く一方、消費者の目はバイオ燃料や自転車に向かうことを懸念している」
 記事には安きに過ぎるケースへの懸念も紹介されている。
「米上院外交委員会議長のディック・ルーガー氏は13日、『1バレル35ドルが底値となるべきだ。代替燃料への投資意欲をそがないためにも-』と述べている」
 FTのウィークエンド版には"FTとランチ"というしゃれた欄がある。世界の知名人にFT記者が昼食を取りながら取材するという段取り。
 3月11日付では13年にわたって英誌エコノミスト編集長をつとめ、その間、部数を50万部から100万部に引き上げた立役者、ビル・エモット氏が登場している。エモット氏は近く退任の予定。
 ランチの場所はロンドンのマツリ・セントジェームスズなる日本食店。
 メニューは「サッポロビール2、天ぷらセットランチ1、刺身セットランチ1、コーヒー2」。締めて41・74ポンド。
 在任中、しまったというケースはなにか、という問いにこう答えている。
「最もきまりが悪かったのは1999年春の特集記事。特集企画は石油会社トップとのランチがきっかけで、当時10ドル原油の次、5ドルになればどうなるといった話題をみんなが口にしていた。エコノミスト誌の結論は『世界は石油に溺れ、確実に値下がりする』。だが、年末を待たず値段は2倍にはね上がった」
 エモット氏はバブル絶頂期の1989年に「日はまた沈む」を著し、日本経済の落ち込みを予測し、05年10月5日号のエコノミスト誌の特集で、「日はまた昇る」との記名記事を書いている。
 日本経済の予測に比べ、原油相場の予想は格段に困難だということなのだろうか。
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「日はまた昇る」を裏付けるように、日本銀行は9日、5年振りに政策を転換し、量的緩和を解除した。
 節分高に向けての国際商品の同調高は超低金利の円を調達し、ドルに換え、商品を買う、いわゆるキャリー・トレードが寄与していたといわれる。
 日銀の量的緩和の解除はいずれ利上げにつながり、円高要因となる。国際商品にとっては明らかに弱材料となる。
 だが、3月第3週の国際商品底入れ機運の動きが示すように弱材料にはならなかった。
「うわさで売って、事実で買う」動きのせいだろう。
 2月の反落局面で市場は日銀の量的緩和解除を相場に織り込み、いざ発表となってもやもやが晴れたということだろう。
 英誌エコノミスト(3月11日号)は「carried away(持っていかれる)」と題する記事で、日銀の量的緩和解除が一部投資家の不安感を呼んでいると解説している。記事から「持っていかれる不安」の記述を抜き出してみる。
「投資家は日本でほとんどゼロに近い金利の円を借り、他国通貨に変え、途上国の株式、金、ケニアのシリングなどに投資した。円が安定ないし下落すればその投資で失うものはない」
「日銀による超緩和策の解除はキャリー・トレードを危険なものとする。事実05年12月、ドルの対円での下落がブラジルリアル、ニュージーランドドル、金、原油などの下落を招いた例もある」
 だが、利上げは早くて年内0・25%という予測が多い。
 原油の底入れ模様に加え、円の落ち着き-彼岸底の環境は整ったようにみえる。
 彼岸底もまた生きているのだろうか。

     (週刊 先物ジャーナル 第834号 掲載)