第 178回
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米良 周            
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある

商品相場は銀齢世代の健康法
「うちの社長がよくいっていた。会社の仕事は、日本経済のために役立っているってな」
 振り込め詐欺が経済活性化に有効?現代経済学の新説だった。
「マコトさんは六十歳以上の平均貯蓄は知ってるか」
 知らないといった。
「だいたい二千三百万円だそうだ。銀行かタンスのなかで眠っているだけの金だ。おれたちが年寄りをだまして金を取り、そいつをきちんと消費にまわす。ちゃんと経済の活性化に役立ってるのさ」
   ― 中略 ―
「勝手なことばかりいうな。だまされたほうは、どうなる」
 やつはベンチでうつむいた。だが、声は冷静だ。
「どうにもならないさ。おれたちは全額奪おうなんて思ってない。せいぜい数百万振りこませて、それでおしまいだ。腹は立つだろうが、簡単に人を信じちゃいけないといういい教訓になるだろう。明日から暮らしていけないわけじゃない。おれは会社の仲間といっしょに、そんなふうに思っていた」
 オール読物3月号にある石田衣良の小説「池袋ウエストゲートパーク[ 要町テレフォンマン」の一節だ。
 池袋の果物屋の店番、音楽雑誌のコラムニストにして弱者側に立つもめごと解決人マコトを主人公とする連作小説は現代の風俗を活写、世間知らずの筆者にはいま風のもめごとを知る手だてのひとつとして愛読している。
 振り込め詐欺にも3分の理ということだろうか。
「老人駆除」(竹本善次著光文社)。題名につられて買い求めた。どぎついタイトルをよそに5人に1人が65歳以上の高齢社会、社会福祉費用の7割を占める高齢者関係の給付金、老いたる日本の全体像をわかりやすく解説している。
 だが、老人駆除と切り捨ててほしくない。ここ20年来、筆者は歯科以外の医者に行ったことはない。医者に行けばやれ血糖値だなんだとどっさり薬を出されるに決まっている。老人医療費の高騰は高給を食む医者の上流生活を支えるためではあるまいか。
 物忘れの度合いは増えてはいるが、筆者の健康法のひとつは相場を考え、それを活字化する作業にあると考えている。
 あえていう。過度にのめり込むことさえなければ相場は立派な健康法である。
 あえてのめり込ませることが禁じられた今回の勧誘規制にはその意味では大賛成である。
 相場の手法には大ざっぱに理屈を考えず、いわば反射神経で相場を追う手とファンダメンタルズを考えて中長期的に利を追う手がある。
 相場健康法はあくまでも後者。上場商品の中心は国際商品。商品相場を考えるのは世界情勢を考えるに通じる。新聞、雑誌を読み、ラジオ、テレビを通じて情報を収集し、商品のファンダメンタルズに照らして相場の行方を考える。
 脳は活性化しないまでも老廃化の歯止めになる。
 手口非公開、トレーダー育成のための板情報の限定開示。反射神経頼りの相場参加者だけでは市場の持つ価格形成機能はゆがむ。
 ファンダメンタルズ派の中長期的視点は欠かせない。相場のファンダメンタルズは需給が中心となるが、手口情報、板情報も含まれる。
 市場参加者は情報については平等でなければおかしい。
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 3月3日、銀が1トロイオンス10・31ドルと22年来の高値となった。05年はじめに比べ60%強の上昇である。
 需要停滞・増産傾向。需給ファンダメンタルズは弱いにもかかわらず、なにゆえの銀高騰か。
 英紙ファイナンシャル・タイムス(FT、3月6日付)には「ファンドの計画が銀を新高値に」という見出しの記事が載っている。
 ファンドとはバークレイズ・グローバル・インベスターズが05年末、米国の規制当局(SEC)に認可申請した銀のETF(ExchangeTraded Fund=上場投資信託)のことだ。
 銀のETFは現物が別途分離保管されているため、投資家にとって現物保管、受け渡しの手間ひまがはぶけ、現物の売買手数料に比べ、手数料も有利という投資商品だ。
 記事にはUBSのストラテジスト、ジョン・リード氏の「EFTが認められれば、銀の12ドル相場ありうべし」というコメントがある。
 銀のETFには反対論もある。
「米国の銀需要家団体はSECにETF反対の意向を伝えている。『ETFは市場の銀不足を招き、ジュエリー加工業者など需要業界にとってマイナス。過去にもスクウィーズ(玉締め)で市場が混乱した例がある』というのが反対理由」
 大投機家が銀を買い進み、結果的にスクウィーズとなった代表例は2つ。
 古くは1980年はじめの史上最高値(50・30ドル)。テキサスの石油富豪、ハント一族の大量買いに起因する。
 次いで1998年春の高値(7・50ドル)は直近の安値から3ドル高。米国の大投資家ウォレン・バフェット氏の大量買いが招いた。
 80年高値は銀製品(銀器、銀ジュエリー)の大量市場還流でついえ、バフェット高値は最大の需要国インドの需要途絶ではかなく終わった。
 今回はどうか。ETFによる銀の保管量増加(一時市場に出回らない)が供給不足に結び付くという……予測の上に立つ10ドル相場。認可されなければ期待プレミアムははげる。
 だが、先物の限月制度、現物の保管コストなどの制限がない銀投資の新たな手だての登場は新たな商品投資の道を広げるものと評価できる。
 大起産業の月刊誌「スペキュレーション」(3月号)は特別リポードで「先発の金ETFの推移からみて、銀の総需要に占めるETFの規模が金の現行8・78%並みになるのは1年を要すると推定、重量換算で2400トン、COMEX認証在庫の約60%に相当する」と解説している。
 リポートのタイトル通り、「貴金属市場で存在感増すETF」といえよう。
 かつて東京工業品取引所に先物市場と併設された金実物市場(倉荷証券の取引)はどうして消えたのだろうか。ETFの先駆者だったのではないか。 

     (週刊 先物ジャーナル 第833号 掲載)