第 177回
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米良 周            
1936年、旧満州新京市生まれ60年早大第一政経学部卒、同年日本経済新聞社入社。73年商品部次長、78年編集委員を経て、94年より日経産業消費研究所首席研究員、96年日本経済新聞社退社。
 現在は先物ジャーナル社・代表取締役。
著書としては「日経商品面の読み方」(78年)「商品先物取引入門(95年)が、訳書として「金ー21世紀への展望」(88年)がある


エタノール新時代、農産物の価格水準を左右

「世界の農産物の需給構造は2,3年前から大変革をとげている。米産大豆の輸出市場に占める独占的地位は崩れ、ブラジルとアルゼンチンを合わせると、米国を上回り、トウモロコシでは南アが復活している。中国の豚、鶏、インドの鶏と畜産物需要の伸長は飼料穀物の需要を押し上げている」
「いま第4次石油ショックとみるが、供給の主力が政情定まらぬアラブとロシアとあって原油は大きく下がることはない。粗糖は先物のシュガーサイクル(6〜7年周期で上がる)の中にある。エタノール需要の増加は砂糖だけでなく、トウモロコシ需要も押し上げている。米産トウモロコシでは05年輸出とエタノール需要が拮抗している」
 2月27日、東京穀物商品取引所が開催した「エタノールの現況と農産物市況への影響」と題する講演会での森實理事長の挨拶の要旨である。
 開演10分前に東穀取2階の大会議室に入ったが、机のある席はほぼ満杯、開演時には椅子席も埋まった。
 森實理事長が挨拶の冒頭に述べられたように「予想以上の集まり」。
 大入り満員の背景は2つあろう。ひとつは05年まで商品の買い投機の中心は石油とメタルだったが、農産物は需給構造の変化をこれから相場に織り込んでいく段階という見方が会場に足を運ばしたのではないか。
 新聞の切り抜き主体の顧客勧誘ではおぼつかない。需給情報を幅広く集め、自分の相場観を持って顧客に接するにしくはない、という考え方が外務員に広がり始めたのではなかろうか。
 調査部会開催の講演会でも若手外務員が連れ立って来場する例が増えているという証言がある。
「相場観など持つな。とにかく歩いて顔を売れ」
 新人外務員がギャン理論を検討、セールスのツールにしようとしたら上司に叱られたという話を本人から聞いたのはつい数年前のことだ。
「とにかく歩け」は古今を問わぬ営業の鉄則にしても「相場観を持つな」は情報提供を生業とする商品取引仲介の業に反する。
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 で、講師のトップバッターは投資日報出版社長の皆川弘之氏。演題は「粗糖取引の基礎概念とエタノールの係り合い」
 1956年東食に入社されて以来、砂糖一筋の人。新聞記者時代、砂糖相場についてよく取材した相手でもある。
「粗糖は『底→天井→底』のサイクルが6年。ニューヨーク粗糖で今回のサイクルは前回サイクルの底(04年2月1ポンド5・27セント)を起点にしている。06年2月に19セント台を付けているが、サイクル的にみて天井は形成していない」
「6年サイクル説に立てば今回のサイクルはまだ終わっていない。06年2月値を上回る1サイクルの高値は1980年の天井44・80セント。とすれば今回サイクルの高値目標はそのあたりとなる。底値から天井値まで7倍前後となる過去のサイクルの経験則に照らすと37セント近辺の天井値も考えられる」
「ブラジルでガソリンにエタノール(アルコール)を混入して使う習慣は第一次世界大戦中からあったが、これは砂糖生産安定と100%輸入に依存する原油の節約を目ざすものだった。今回はこうした目的に加え、エタノールの輸出商品化を目ざしている」
「原油相場が1バレル50ドル以下に下がらないとすれば世界最大の産糖国であるブラジルのエタノール増産は続き、砂糖の供給余力は小さくなる。EUの砂糖制度改革(ビート生産を減らして補助金付輸出を止める)も動き出す。砂糖は大相場が出現する舞台装置が整っている」
「1974年の大相場時にはロンドン駐在だったが、ホテルからも砂糖が消えていた。トレーダーのデスクにはSOS(save our suger=砂糖を節約しよう)というステッカーが張ってあった。一時帰国してお土産に砂糖袋10個(10キロ)を持って帰ったことがある」
「砂糖は動き出すと大変。過去の動きは参考にすべきだ。過去の経験からいうとそう簡単にはサイクルは変わらず、いくところまでいく」
 ざっと1時間の皆川さんの講演を聞いて疲れ果てた。
 後ろ寄りの席でマイクの声を拾いにくかったこともあろうが、年とともに緊張持続度が落ちてくることを実感した。第2部を待たず退場した次第である。
 05年の春だったろうか。「エタノールが増えているのだから砂糖は上がる15セントは確実」という皆川さんの話をある席で聞いた。押し目知らずで06年2月の19セント台まで-。何度買わざるを悔いたことか。
 EUの補助金廃止に伴なう砂糖在庫の放出という材料をどうとらえたらいいのか。
 04年大豆で小さなプラス、05年パラジウムで小さなマイナス。06年は粗糖を買うか、トウモロコシの買いか、筆者はいま超小口投機について思案中である
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「歴史的にみて考えにくい転変例のひとつにランクされよう。テキサスの石油マンの出で、飲んだくれから立ち直ったブッシュ大統領は年頭教書で『米国は石油中毒に侵されている』とし、アルコールベースの燃料であるエタノールの利点を強調した」
 英誌エコノミスト(2月11日号)のエタノールについての記事の出出し部分だ。
「大統領は"繊維系エタノール"を先端技術で6年内に実用化することを求めている」
 記事には2012年のエネルギー法が求めるエタノールの生産目標のグラフが出ている。
 記事からポイントを抜き出してみる。
●米国は伝統的にエタノールをトウモロコシから産出している。だが、サトウキビから作るブラジル産エタノールに比べ、生産効率はかなり劣る。農業ロビーの力で何10億ドルの補助金をトウモロコシ・エタノールに与え、より環境に適合し、より安いブラジル産を関税で閉め出している。
●石油高、政府の支援、新技術の開発などをテコに米国スタイルのエタノールはいま生産ブームのただ中にある。カーギル、アーチャー・ダニエル・ミッドランドなどアグリビジネスの大手がトウモロコシ原料のエタノール生産に向け何10億ドルを投じている。
●バイオ燃料に関してはマイクロソフトの創業者であるポール・アレン、ビル・ゲイツ氏がそれぞれ別個にエタノール会社に投資し、英航空業界のボス、リチャード・ブランソンもバージニア・フューエルという新会社を通じ、エタノール生産に3年以内に参入する。
 新技術を駆使した繊維系エタノール(わら、トウモロコシのくき、農業廃棄物などが原料)に主力が移るのか、トウモロコシ依存が強まるのか。
 米産エタノールの動向が農産物相場の大きな材料となってきたことは確かだ。

     (週刊 先物ジャーナル 第832号 掲載)