小豆復権を期待する
梶山には、文学青年の枠にはまらない行動力があった。好奇心が旺盛で、おもろいやないかと思うと、じっとしていられない。29年には、当時「振興外貨」(リテンション)とか「マル特」とか呼ばれた証書の売買で、一山当てようと企んだ。振興外貨というのは、輸出の報奨として与えられる特別割当外貨のことで、そのカード(確認記録書)がプレミア付で売買された。
その年、北海道の小豆が凶作だった。通産省が小豆の大量輸入を許可しそうだ、という情報が流れた。小豆の輸入には振興外貨が必要だ。通産省が正式に発表すれば、カードの相場は2倍、3倍に跳ね上がるだろう、と予想された。貿易商を営む中学時代の友人から、その話を聞いて、梶山は奮い立った。おもろいやないか。俺がゼニを見つけてくるわ。トイチ(十日で一割)の利息を払っても、儲かるやないか-。
-中略-
しかし、振興外貨に振りまわされた数カ月間の経験は、むだにはならなかった。梶山は文学青年にはめずらしく、経済と数字に強かった。金儲けの欲と好奇心も手伝って、振興外貨と小豆相場の実態を、一から学んで情報も集めた。自分でも気がつかないうちに、取材のノウハウを体得していた。おりから、凶作のあおりで小豆は"赤いダイヤ"といわれるほど、相場が急騰した。日本橋蠣殻町の穀物商品取引所では、売り方と買い方の欲望がぶつかり合った。梶山は、これは小説になると思った。
週刊誌風雲録(高橋呉郎著、文春新書)から抜き出してみた。
梶山とは梶山季之。中略の部分には闇金融の帝王と称された森脇将光をはじめ、一攫千金を目ざして融資依頼に走り回り、画餅に帰したことが記されている。
梶山はこの体験を踏まえ、「31年、「新思潮」に「振興外貨」を発表、改めて取材して、代表作「赤いダイヤ」(37年)となる」
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36年だろうか、東京穀物商品取引所の記者クラブに詰めていた新米記者の私は「もっと周辺取材をせい」とさとされたことがある。
「梶山という男が小豆の取材にきたことがある。周辺を固め、それは緻密なものだった。値動きを追い、相場観を御用聞きみたいに集めるだけでは記事のたれ流しだ」
同業他社のベテラン記者の忠告を思い出す。
ともあれ、梶山の赤いダイヤはベストセラーとなり、テレビ映画化されて、小豆、さらには大手亡人気をあおった。
大手亡は上場商品からとうの昔に消え、国際商品全盛の中で国内型商品として小豆は孤軍奮闘といえよう。
全国商品取引所連合会調べの1月の出来高ランキングで46商品中、小豆は銀に次ぐ15位。国内型商品ではトップの座を守っている。
国際商品が高下で同調色を強める中、国際商品と値動きで別行動をとる国内型商品がもっともっとできていいはずだ。やがてやってくるコメ先物の成功のためにも、国内運用型商品ファンドのよりよき組成のためにも、である。
人気ランキングで小豆の上位ランキング入りを阻害しているのはなにだろうか。小豆に強い商品取引員幹部の見解は次のようだ。
「仕手といわれるO、H、Nなどプロ同士の主戦場になっている。納会で引いたり、渡したり、ザラバで手当てもする。プロのおもちゃ化しているのが現状。年配の小豆ファンもいるし、一定のゾーン内の動きで若いチャーチストも出入りする。そこそこできている背景だ」
「盛り上がりに欠けるのは商品取引員が仕手同士のポジションなど内部要因先行の小豆より、国際的な需給関係や国際情勢で値動きをよりわかりやすく説明できる国際商品に目を向けているせいだろう。こうした動きを踏まえ、板寄せ手法の中でNon‐GMO大豆の増節の見返りに小豆の減節に踏み切り、自動的に出来高がセーブされた」
「需要家はどうか。高級和菓子メーカーはいざしらず、加糖あんが入ってくるから、小豆相場がどう動こうが我れ関せずだ」
なるほど。だが、かつての小豆記者の郷愁の念だけでなく、小豆の復活を期待する。
大枠でホクレンの管理相場といわれ、巨大の輸入ソース中国も控える。かつてと異なり、小豆相場の波は比較的穏やか。
ならば初心者向けの商品先物入門商品ととらえたらどうか。レバレッジの低い輸入大豆が人気を集めているのは、ケガしても傷口がそれほど大きくないことが指摘されている。
流動性が高まれば海外の商品ファンド玉も入ってくる。それに国際商品の同調的動きへの大口投機家のヘッジにもなる。
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国際商品の同調的動きはどう読んだらいいのだろうか。
英紙ファイナンシャル・タイムス(2月15日付)はザ・ショート・ビュー(短観)というコラムで次のように解説している。
「商品の同調高は低金利の円を調達し、ドルに換えて、商品を買う、いわゆるキャリー・トレードによる部分が大きかった。7日、10日の同調下落は円高によって投資家が買いポジションの整理に走った結果だ」
「商品のファンダメンタルズの強さには変わりないという意見もある。活況を呈する世界経済を背景にした需要増加、ドルの安定性とインフレ圧力の懸念が買い根拠だ。メリル・リンチが14日に発表した調査では投資家の28%がドル下落のヘッジとして金に投資している。こうした見方は賛否いずれにも受け止めることができる。ドルは対円では下落したが、対ユーロでは上がった」
「商品の値動きは世界経済についてなにかを訴えているのだろうか。米国債の長短逆ざや現象(現在、2年物が10年物に比べて利回りで0.1%上回る)は景気後退シグナルとなることが多かった。コメンテーターの多くは今回は景気後退のシグナルではないと説いている。@世界的な貯蓄余剰、A年金の長期債志向、B中央銀行のインフレ抑制能力──などが長期逆ざやを招いている、とみている。
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